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開発や町づくりに欠かせないのは民主主義的な合意形成-ニセコ町長 片山健也氏

  • 2022年7月8日

地域の価値は良好な環境にあり
オーバーツーリズムのない町の課題とは

-ニセコ町はCO2削減にも積極的に取り組んでいます。観光産業にもたらす良い影響はありますか。

片山 観光産業も農業も最終的には信頼に拠って立つ営みです。また、繰り返しになりますが、ニセコの観光や農業の最大の価値はこの環境であり、それを守っていくのが町の考えです。ですからCO2削減は観光や農業を生かすためにも必要です。

 昨年度は自転車活用でCO2削減を図る条例を作りましたが、今年度は建物由来のCO2削減のための条例を作りたいと考えています。エネルギー効率が悪い在来工法の木造建築を、高気密・高断熱の建築へ転換していくための条例です。例えば住宅では高気密・高断熱の工法にすると建設費が数百万円上がりますが、光熱費の減少により15年で償却できるなど、効果を具体化・見える化して転換を促します。長野県の成功事例を参考にさせてもらっています。

 ホテルなどの宿泊施設でもこれが実現すれば、目標である2050年までのCO2排出量86%削減は絵に描いた餅ではなくなります。ただしホテルのような大型投資の場合、投資側は、何十年後かに回収できることよりも、初期投資の建設費を重視します。数億円単位の話ですから無理もありません。そこで、例えば町の固定資産税を数年間は段階的に減免する、道庁にお願いして不動産取得税を優遇するなど、彼らの背中を押すインセンティブを提供できないか検討しています。

-読者にメッセージをお願いいたします。

片山 私が就任する前、町の観光予算は3500万円でしたが、これを1億円まで増やすのに大変苦労しました。農業と違い、観光に公共の予算を充てることへの理解を得づらかったのです。しかし観光は裾野の広い産業で、多くの人が知らないうちに恩恵を受けています。これを行政がアピールしてこなかった反省もあります。そこで内閣府が地方創生に関連して公表している観光関連数値や、経済波及効果を数値化した地方創生の地域経済循環図表等を使い、観光がいかに町の経済に貢献しているか、数字を挙げて訴え続けました。こうして来訪する観光客も増え、順調に税収が伸び、住民の理解も進みました。

 一方、町でアンケートを取ると、観光産業で働きたいという若者は少ない。観光産業はブラックで給料も安いという認識があるようです。しかし最近は安売りではなく正規料金のビジネスが増えて来ていましたし、観光産業の安いイメージを変える大きな波がうねり始めたところでした。その矢先のコロナ禍でしたが、この流れのなかで行政がしっかりと制度設計し、安売りではない質の高いリゾートを目指し、一過性の金儲けではない持続可能なリゾートを作り上げていかねばならないと思っています。事業者の方々と力を合わせ次のステージを目指していくつもりです。

-ありがとうございました。