開発や町づくりに欠かせないのは民主主義的な合意形成-ニセコ町長 片山健也氏

  • 2022年7月8日

地域の価値は良好な環境にあり
オーバーツーリズムのない町の課題とは

-自治体と住民、事業者が三位一体で進めるわけですね。

片山 三位一体と言うよりも戦いの連続で、悩ましいことも沢山あります。3年以上経っても計画に着手できない事業者さんもいます。けれども将来を考えれば、皆の合意の下に気持ちよくやる方が事業者さんにとっても遥かにいいはず。ですから民主主義的な合意形成の時間は、町づくりに重要なのです。一足飛びに事が運ばないジレンマや怒りもあろうとは思いますが、落としどころを探り、人間的な思いをやり取りしながら物事を前へ進めることが大事です。

-コロナ禍が2年以上続いていますが、ニセコの観光への影響は?

片山 影響は甚大で、冬の大きな収入源のインバウンドが19年比で99.7%減とゼロに近い状況です。ニセコの観光は冬場のオフシーズンが長年の悩みでしたが、インバウンドが増えたおかげで、コロナ禍前の観光消費額は夏と冬が半々くらいまで平準化しました。インバウンドの客数は全体の3割ほどですが、滞在期間が長く、消費額では国内と並ぶほどになっていました。

 国内客は緊急事態宣言が出るたびにストップ。昨年の秋口や今年2月も修学旅行の予約が入っていましたが、全てキャンセルになりました。その繰り返しで飲食店を含む観光産業は大きく疲弊しました。

 ですが、大規模な宿泊施設のオーナーさんが、1人も解雇しないという方針を打ち出してくださるなど、ニセコの観光に関わる皆さんの頑張りで何とかやって来られました。また地元で活用できる商品を互いに買い支えるなど、事業者同士の助け合いもありました。コロナ禍だからこそ助け合う気持ちも強くなり、こうした価値を次のステージに生かさなければ惜しいと考えています。

 町では、多い時期は年間8000万円の入湯税を得ていましたが、この使い方を改めて考える機会もありました。入湯税の一部を今回のような危機に備えて蓄え、温泉のメンテナンスに使うなど、様々な意見が出たのは収穫でした。また現在検討中の宿泊税についても、将来のパンデミックに備えて一部を基金に回す、ニセコの弱点である二次交通の整備に充てる、環境を守るために使うなど、自分たちで頑張れる仕組みを整えておこうという議論も始まっています。

-国内客は道外からと道内からではどちらが多いですか。

片山 半々です。夏場は自家用車でやって来る道内の観光客が圧倒的に多いですね。これがコロナ禍でピタリと止まってしまった。ただし緊急事態宣言の合間にはそれなりに動きがありました。19年度の入込客数は過去最高の175万3000人で、そのうち日帰り客数が141万9000人、宿泊客数が33万4000人でした。それが20年度は94万人まで落ち込み、日帰り客が73万2000人、宿泊客が20万8000人。20年度の数字はほぼ国内客のものです。

-インバウンドも多かった19年度にはオーバーツーリズムの問題はなかったのでしょうか。

片山 それはなかったですね。逆に長期滞在するインバウンド客に提供する観光メニューが少ないのが課題でした。食事環境も課題です。ニセコ山系のニセコ町、倶知安町、蘭越町、岩内町、共和町の5町でニセコ山系観光連絡協議会を構成し、ニセコのリゾートとして観光客を迎え入れているのですが、このところ倶知安町のコンドミニアムが急増しています。コンドミニアムですから宿泊客は外食をしますが、これに周辺の飲食店の増加が追い付かず、吹雪の中、ラーメン店に長い行列ができているような様子も生じています。

 二次交通の弱さも課題です。タクシーが少なすぎて、予約さえ受けてもらえないこともあります。ですから歩いて行ける近場の飲食店にしか行けない、でも近くに飲食店がないという悪循環です。宿泊税を導入して地域でシャトルバスを走らせる案も検討しています。現在、大学の先生らにお願いして、環境に優しく雪にも強い、ニセコに合った未来型の二次交通を考えてもらっています。

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