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「特化」したコンテンツは旅行の動機になる-RT Collection 柴田真人氏寄稿

行動の動機になる「特化」

 さて、本題です。

 もしこのお店が納豆に特化していなかったら、私は東京から新幹線に乗ってわざわざ足を運んでいなかったと思います。焼き肉やすき焼きがおいしいということであれば、東京から京都へ旅行する動機にはならず、都内のおいしい焼肉屋やすき焼き屋を探して食べに行くか、あるいは京都に行く別の用事があった際についでに立ち寄れればよいと思っていたでしょう。

 この夏豆は納豆に特化して、コース料理の全てを納豆で作り、他のお店にはない納豆料理で突き抜けた料理を提供しています。また、初回利用の人は基本メニューのコースのみとなり、2回目以降は納豆を使ったアヒージョなど別の納豆料理を体験することができる玄人コースもあります。このような特化したコンテンツだからこそ、私のように夏豆に行くということが主の目的となり、実際に足を運ぶという動機や行動の結果につながっています。

コモディティ化を超えて

 昨年、訪日旅行事業者向けのとある県の商談会に出席した際、次のようなことがありました。各市町の自治体やDMOの担当者から「私たちのエリアには雲海が見えるスポットがあるんです!」と紹介されました。その商談会中に各担当者から5~6回は聞いたと思います。しかし、その時点でその観光コンテンツはコモディティ化しており、雲海を見るだけではわざわざ数時間の移動時間を使って、その土地に訪れる旅行の動機にはならないと思いました。標高の高いところに行けば雲海を見ることができ、そのようなスポットは日本国内に100カ所、200カ所はあるのではないでしょうか。

 コモディティ化が起こると旅行者の取り合いになり、訪問者数や売上は縮小してしまいます。そうなった場合は、新しい商品を作ることに注力する、あるいはそのコンテンツをさらに特化して進化させ、コモディティ化から突き抜けたものを目指す、のどちらかになります。

 北海道のトマムにある星野リゾートが運営する雲海テラスは、特化したコンテンツのとても良い例だと思います。例えば、ハードの面ではクラウドプールやクラウドベッド、クラウドバー、クラウドウォーク、雲のゆうびん屋さんなど、とにかく雲です。アクティビティでは雲海ガイドや雲の学校、また、雲cafeで提供している商品は雲海コーヒー、雲海ココア、雲海ソーダ、雲海オレ、雲ソフト、雲マカロン、雲マシュマロなど、ここでもとにかく雲です。とてもわかりやすい特化型の企画をされており、雲海のコンテンツで突き抜けた内容になっています。

 今後、旅行会社が旅行者に選ばれるためにどのような特化した旅行商品を作っていけるのかを私自身も挑戦し続けたいですし、他の旅行会社がどのような特化した旅行商品を作っていくのかをとても楽しみにしています。今は、趣味に没頭して突き抜けたら、副業になって稼げる時代です。意外と個人の趣味や興味を深掘りして、突き抜けていくとおもしろい商品ができるかもしれません。

柴田 真人 / Masato SHIBATA
大学生時代にオーストラリアのタスマニア島で過ごし、旅行会社に就職。15年間の旅行会社勤務時代には主に東南アジア方面の仕入れや企画に従事。また、フィリピンでの5年7ヵ月間の海外赴任を通して、アウトソーシング事業の立ち上げからインバウンド事業における現地支店の立ち上げ及び日本マーケット初のチャーター便運航のプロジェクトなどを経験。その後、2018年に合同会社 RT Collectionを設立。