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旅行業再生に向け共通プラットフォーム、新規事業参入推奨も-JATA経営フォーラム

  • 2022年2月25日

「協調・共創」など3つのテーマで議論
旅行業のノウハウ活かした他分野展開へ、中小旅行会社は「個人力」がカギ

 日本旅行業協会(JATA)は2月21日、「JATA経営フォーラム2022」を昨年に続きオンライン開催した。今年のテーマは「持続可能な旅行業を考える」で、3月31日まで限定公開する。このうち基調討論では「旅行業『再生』へ向けて」と題し、昨年10月にJATAが立ち上げた旅行業再生戦略会議のメンバー6名が参加した。同会議は「持続可能な旅行業ビジネスモデルの構築」と「高収益構造への転換」をテーマに議論を進めてきたところ。今回の基調討論は中間答申との位置付けで、6月に開催予定のJATA定時総会で最終答申を発表する予定だ。今回はそんな基調討論について紹介する。

基調討論の様子
【パネリスト】
JTB取締役会長 旅行業再生戦略会議議長 高橋広行氏(※高ははしご高)
ANA X取締役副社長 加藤恭子氏
エイチ・アイ・エス(HIS)取締役上席執行役員 山野邉淳氏
風の旅行社代表取締役 原優二氏
KNT-CTホールディングス(KNT-CT)代表取締役専務 小山佳延氏
日本旅行秘書広報部長 佐藤均氏
【モデレーター】
JATA理事・事務局長 池畑孝治氏

コロナ禍の経験を未来に活かす、キーワードは「レジリエンス」

ANA Xの加藤氏  基調討論ではモデレーターの池畑孝治氏が3つのテーマを提示し、各人がそれぞれキーワードと共に意見を述べる形で進行した。最初のテーマは「コロナ禍で自分たちは何を学んだのか」。これに対し、ANA Xの加藤恭子氏は「回復力」「しなやかさ」「打たれ強さ」などを意味する「レジリエンス」をあげた。同氏はコロナ禍の対応について、過去の事例がないことから「早めに業界全体、各社間で情報共有をする場があったほうがよかった」と振り返った。また、2021年4月にANAセールスをANA XとANAあきんどに再編したことを説明し、「コロナでなければ一気に変われなかった」と、コロナを契機に変革が加速したことを語った。

 JTBの高橋広行氏は「災害対応記録の共有化」をあげ、「(コロナ禍での取り組みを)業界として記録にとどめて形あるものとして残すことが、業界全体のレジリエンスを高めるために極めて重要」と強調。JTBが東日本大震災の経験を活かした災害対応マニュアルを作成したところ、西日本集中豪雨などの際に活かせたことを例示し、国の支援策の活用法やGOTOトラベル・県民割など復興策の仕掛け方、新たなビジネスチャンスの創出法などをドキュメンタリーとしてまとめて保管することを提案した。

 日本旅行の佐藤均氏は「旅行業のポテンシャル」をあげ、旅行需要が大幅に減少するなか、MICEや教育旅行、店頭販売などで培ってきたスキルやノウハウを活かし、コロナワクチンの接種会場やPCR検査会場の運営に役立てたことを紹介。MICEイベント経験者が全体を取り仕切り、会場までの誘導を添乗員が、コールセンターを店頭販売経験者などがそれぞれ担当し、ワクチン接種関連業務だけで全国200ヶ所を運営できたことを報告した。佐藤氏は「もともとスキルやノウハウを旅行以外の分野で活かせないかと考えていたが、(コロナで)一気に加速した」と説明。「旅行業を中心としながら、スキルをもっと広義に捉えた形での事業領域の展開が必要なのでは」と指摘した。

HISの山野邉氏  HISの山野邉淳氏は「領域拡大の可能性」をあげ、約20万人近くが利用したという自社のオンラインツアーについて説明。食事や買い物などの体験との組み合わせや、BtoB展開なども実施しているという。同氏は海外旅行が回復した後についても、秘境やオーバーツーリズムに悩むデスティネーションへの商品として活用できる可能性を示唆した。このほか、HISが6店舗展開している蕎麦屋について、社内で希望者を募ったところ想定以上に人数が集まったことを説明し、「旅行好きで入社してきたスタッフだが、マネジメント層の思い込みで可能性を狭めないような事業展開も大切」と話した。

 風の旅行社の原優二氏は「中小旅行会社にとって、コロナ禍で旅行会社はイベントリスクに弱い、脆弱だと痛感させられた」とコメント。1100社以上が旅行業を廃業するなか、「資産や減価償却がそれほどなく、人件費や固定費をなんとか抑えられれば雇用調整助成金や支援金により何とかやってこれた」と振り返った。その上で、週3勤務にして副業を推奨する、テレワークを活用して経費を削減するなどの雇用のあり方を変化する必要性を述べた。

 キーワードとしては「顧客の創造の大切さ」をあげ、現在も顧客からの旅行ニーズの高さを説明。コロナ禍で顧客にどのような旅行を提案するかを真剣に考えなければならないとし、「単純な素材販売でなはなく、旅行の中でどうソリューションを使うか、企画旅行でどこまで創造的な商品を造っていけるのかを含め、我々の存在意義をもう一度考え直す機会になっている」との考えを述べた。

 KNT-CTの小山佳延氏は「自分たちの存在息義」をあげ、「(コロナ禍は)旅行業が社会に必要とされているかを考える契機になった」と振り返った。その上で「我々が進むべき方向性は、旅行代理業から自ら商品を創り出す、本当の意味への旅行業へ脱皮する、コミッションからフィービジネスへのシフト」だと強調した。そのためにはこれまでの経験をもとに、価格に転嫁できる付加価値を創り出し、利益が取れる領域をいかに増やすかが重要だという。また、今後は顧客目線、着地目線の旅づくりが求められるとし、「場合によってはオフィスから飛び出し、担当エリアに住みながら付加価値の創造に専念するような新しい動きが必要」と話した。

 これを受け、HISの山野邉氏は「旅行派生型ソリューションビジネスへの転換が求められている」とコメント。「ソリューションビジネスは思っているよりも参入障壁は低いし、私たちの存在価値更に高めていける」とメリットを語った。また、「ソリューションビジネスはフィービジネス」であると語り、企業や自治体のニーズに合えば、各社が独自のソリューションを独自の価格設定で提案できることを指摘。「ソリューソンの質と価値を高めることで、単なるコミッションの削りあいて疲弊している競争環境を打破し、長年続いた人的サービスを0円で計算している利益構造も変えられる可能性がある」と期待を示した。