旅行業再生に向け共通プラットフォーム、新規事業参入推奨も-JATA経営フォーラム

  • 2022年2月25日

「協調・共創」など3つのテーマで議論
旅行業のノウハウ活かした他分野展開へ、中小旅行会社は「個人力」がカギ

プラットフォームやインフラ利用で協業、SDGsに配慮し、発地と現地の協調も

風の旅行社の原氏  2つ目の「協調・共創」というテーマでは、各社ともにプラットフォームやインフラの利用で協力しようという姿勢が見られた。風の旅行社の原氏はキーワードとして、航空券などの旅行素材の共同仕入れ組織である「TPC(トラベルパーツセンター)」と、宿泊・観光施設や日本旅行の企画商品などの精算に利用できるクーポンを展開する「全旅」をあげた。

 同氏は両組織の利便性を語るとともに、コロナ禍で国内旅行を取り扱うようになったが国内にランドオペレーターがほとんどなく、ホテルから直接仕入れることは中小旅行会社にとって難しいことを説明。既存のプラットフォームは今まであまり活用できていないとし、「いろいろなプラットフォームができるなかで中小がそれを使えるという事態になれば、ありがたい」とコメント。「海外においてもコロナ後に航空券やランドをどう仕入れるのか、皆不安になっている。共同でプラットフォームを作って利用していくのは積極的に考えたい」と意見を述べた。

 日本旅行の佐藤氏も「共同プラットフォームの活用」をあげ、旅行会社の収益性の低さの大きな要因は、人件費や設備費に加えシステム費用の大きさにあるとの考えを示し、「システム開発において、競合が発生しない分野で業界全体で共同開発し、各社が利用すれば経費削減につながっていくのでは」との見解を示した。同氏は災害時に旅行会社の仕入れ担当者が施設に電話で状況確認していることをあげ、「施設側からすると、災害対応に追われるなか、同じような電話を各社から受けて同じ回答するのは良くありがち」と説明。「災害の状況を知らせるようなプラットフォームを作り、施設はそこに情報を入力し、各社がそれを見に行く」仕組み作りを提案し、「共同で作れば業務効率が挙がるし生産性向上につながる」と期待を示した。

 ANAXの加藤氏は「インフラの共同利用」をあげ、航空会社の事例として全日空(NH)と日本航空(JL)が2023年5月をめどに、国内線搭乗口のチェックイン機器を共同利用する準備を進めていることを紹介した。2社が共同利用することでコスト削減になるだけでなく、共同利用により空いたスペースが有効利用でき、顧客の利便性向上にもつながるという。同氏によれば、2社の機器更新時期が重なったことから生まれた発想だといい、「マーケティングや営業など一緒にできない部分はもちろんあるが、各社が磨き上げるべきところはそれぞれ磨き上げ、一緒に利用できることは一緒にやろうという発想になっていかなければならない」と語った。

JTBの高橋氏(高ははしご高)  「共通インフラ」をあげたJTBの高橋氏は加藤氏に共感を示し、「旅行業界も自前主義を改め、業界全体で共有できるものは共有すべき、そういう時代になっている」と主張。「今後は呉越同舟は大いにありだと思っている」と話した。

 高橋氏は例として「JTBツーリズムプラットフォーム(TPF)」をあげ、TPFが観光資源やコンテンツをデジタル化・多言語化し、オープン利用できるものとしてネット上で提供するプラットフォームを提供していることを説明。チケット購入のキャッシュレス化など課題は多いとしながらも、「こうした作業を各社まちまちにやると相当な労力が必要で、販売・サプライヤー双方に手間がかかる。本来は業界全体で一つのスタンダードで共有すれば足りる」と話し、「各社が展開している商品や情報提供、管理業務を含め、業界には共有できる部分はたくさんあると思う。こういったものを可能な限り共有化するのが業界全体の利益に繋がる」と旅行会社各社に協力を訴えた。

 KNT-CTの小山氏も「非競争分野での協力」をあげ、旅行会社同士の協力事例を紹介。昨年11月に阪急交通社から、添乗員が使う添乗タブレットの共同利用について提案があり、これにクラブツーリズムやJTB、読売旅行も加わり、12月下旬に意見交換会を実施したことを説明した。同氏は添乗タブレットの導入効果として、精算のキャッシュレス化、業務の効率化、ペーパーレス化によるコスト削減などをあげた。会議では管理部門で個社が多額なシステム投資をかかえるリスクを軽減する方向性などを確認しており、小山氏は「業界全体の課題となるキャッシュレスの取り組みは足並みをそろえていく必要がある」と強調した。

 HISの山野邉氏は「共にサステナブルに」をキーワードにあげ、発地・顧客中心の旅行から、行き先である現地を重んじる旅行への転換の必要性を指摘。「実際に(訪問先が)破壊されてしまえば訪問できず、素晴らしい体験も、それにまつわる経済活動もすべて止まってしまう」とし、「これからは送ることだけでなく、地域を育てて継続させていくことを旅行業の中心にしてもいいくらい」と語った。

モデレーターを務めた池畑氏  これを受け、日本旅行の佐藤氏は企業や自治体、学校からSDGs関連の商品コンテンツの開発が求められていることを説明。「SDGsへの取り組みを通した社会貢献を会社として実現することができるし、結果として我々の存在意義に繋がっていく」と話した。このほか、モデレーターの池畑氏も、ヨーロッパのツアーでシート・イン・コーチと呼ばれる、乗合型かつ現地集合・解散型の周遊観光バスを活用している旅行会社がいることに触れ、「他社のインフラを上手に活用することで、行き先のSDGsに貢献できる」と指摘した。