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【ホテル総支配人リレーインタビュー】第11回 雲仙観光ホテル代表取締役社長総支配人 船橋聡子氏

  • 2021年12月9日

名門クラシックホテルの矜持と戦略
スタンダードルームを売らない選択

-コロナ禍の業績への影響をお聞かせください。

船橋 私が総支配人に就任してからは、高単価施策を取りハイエンドのブランディングを強化してきました。数を追えばその分人件費も上昇するので、高単価を追求したうえで数とのバランスを取る方が収益を最大化できると考えました。そのため40室ある客室のうち、基本的にスタンダードの客室を販売せず、スーペリア、プレミアム、デラックスの3カテゴリー、26室に絞って運営してきました。コロナ以降も基本は変えていませんが、滞在日数とリピート率の数字をより重視しながら単価の維持を心掛けています。

 高単価施策は定着して成果を上げるまでに3年ほどかかりましたが、今ではプレミアムカテゴリーの部屋から予約が埋まるようになりました。今期の客室平均稼働率は35%程度ですが、客室平均単価は4万円近くで、コロナ前の2019年度より上昇しています。

-スタンダードルームはクローズしているということですか。
プレミアムツイン

船橋 ホテル主催のイベントなどで部屋数が必要になるとき以外は使用していません。我々は日常から解き放たれて寛げる空間と時間を提供する場所でありたいと考えていますし、そういう場所を求めていらっしゃるお客様にとって、価格は最重要の要素ではありません。にもかかわらず価格を下げてお客様の期待を裏切るような状況を生むわけにはいきません。「ホテル」を名乗る以上、単なるスリーピング・アコモデーションであってはいけないと思います。

 昨年のGoToトラベル期間中は多くの宿泊客を迎え、売上が対予算比で267%まで達しましたが、スタッフは疲弊し、ともすればサービスの質が落ちる懸念がありました。その意味でGoToトラベルは、両刃の剣ともいうべきものでした。

-コロナ前と現在とで、予約経路に変化はありましたか。

船橋 2019年にはダイレクトブッキングの強化を目指し自社サイトを刷新しました。現状ではOTA経由が圧倒的に多く50%から55%を占め、自社サイト経由の予約が15%。コロナ前は海外系OTAが多かったですが、現在は日系OTAが増えています。コロナ禍で大きく減少したのが旅行会社経由の予約です。

-コロナ禍による売上減に対応するためにどのようなコストセーブに取組みましたか。

船橋 雇用調整助成金を活用することで従業員の解雇は避けました。従業員を失わないよう副業を認め、競合する職種での副業も許しました。実施したコストセーブは細かい取り組みの積み重ねです。清掃を内製に変え、営業で使うフライヤーも内製化し、設備改修も可能な限り自前で済ませるように工夫しました。当ホテルは標高730mに位置し、湿度も高く硫黄交じりの大気に晒される厳しい環境です。チェックを強化し、修繕が必要な個所を迅速に発見し初期対応することで、大掛かりな改修工事に至らないようにしています。こうした努力で設備・備品の修繕関係のコストは1000万単位で削減できました。露天風呂の閉鎖はお客様にご迷惑をおかけしていますが、それ以外はお客様の目に触れない部分でのコストセーブに徹しています。

 コスト削減をしなかったのは料理や客室内の備品類、そしてロビー周りです。ロビーはホテルのイメージを左右する最重要の空間です。コスト削減はメリハリが重要。削減によってブランドを一度落としてしまえば元には戻りません。

-現在行っている需要の掘り起こしや施策についても教えてください。

船橋 コロナ禍になり、文化活動には力を入れました。人々の心が疲弊しているときに、一時的にせよ文化を楽しむ時間と空間を提供するのはホテルの大切な使命と考え、ホテル館内でコンサートを開催しました。イベントに親和性のある企業等にお願いして協賛を仰ぎ、その後も同様の取り組みを続けています。

-来年度以降の経営計画の基となる需要動向の見通しはどのように想定していますか。

船橋 欧州の感染再燃が収まれば、2022年秋以降には需要が戻ると思われます。その想定で来年10月、11月、12月には単価4万2000円の企画を用意するつもりです。しかしそれ以前に積極策を打つのは危険なので、ゴールデンウィークは控えめに対応します。

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