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地域とつながる旅館に向けて「旅館3.0」を加速―いせん代表取締役井口智裕氏

  • 2021年6月21日

コロナを契機に新しい取り組みも積極展開
雪国観光圏では雪国文化を発信

-新しい取り組みに向けて、「旅館3.0」という考え方を掲げていらっしゃいます。

井口 旅館産業の黎明期であった団体客主体の大型旅館が1.0。90年代から人気が出始めた小規模なお籠り高級旅館を2.0とし、地域と共生しながら発展していく旅館を3.0と定義しています。宿泊自体が目的となる旅館から、これからは旅行者の地域での過ごし方に旅館がどう関わっていくかが重要になると考えています。非日常の観光地ではなく、異日常を感じる地方に人の流れも徐々にシフトしていくと思います。

 一般的にコロナ前の旅は、ワクワク感を求めるのではなくコスパ重視でしたが、私は「それは本当に旅なのか」と疑問に思っていました。人間は本質的にアドベンチャーを求めています。未知への欲求があります。決められたものに参加するのではなく、お客様にいかに未知のものを提案していくか。未知のものに出会うことで、人生が豊かになります。

 また、地域との関わりについても、そこで暮らしている生の人と会えば、未知の領域が広がっていきます。その価値を「旅館3.0」でどのように伝えていくかを考えているところです。

-観光客が地域に入り込むと、さまざまな社会的コストが生まれる可能性もあります。

井口 大切なのは観光としてのゾーニングだと思っています。地元住民と観光客がどこで接点を持つか。雪国観光圏でいうと、越後湯沢は観光地化されているので、ある意味動物園です。一方他の市町村は観光慣れしていないので、サファリというイメージです。そこで重要になってくるのが、サファリで必須のレンジャーの立場になるガイドの存在だと思います。地域との関係性が分かる人がお客様を選別してマッチングさせないと、生態系が壊れてしまいます。それが今後の観光のカギになるのではないでしょうか。

-一方で、地域連携DMO雪国観光圏の活動も積極的に展開されています。その設立の背景と目的をお聞かせください。

井口 雪国観光圏は、県を跨ぎ、十日町市、魚沼市、南魚沼市、みなかみ町(群馬県)、湯沢町、栄村(長野県)、津南町で構成されています。2008年に観光圏整備事業を開始し、2017年11月に日本版DMOに登録されました。

 湯沢はスキーリゾートとしては有名な場所ですが、スキーをやらない人にとっては関心が薄い。それを地域の価値をリブランディングすることで、ひとつの個性を打ち出していこうと考えました。しかし、自社だけでは限界があることをHATAGO井仙のリニューアル時に痛感しました。

 この地域の価値とは、雪と共生してきた文化そのものにあります。たとえば、春採れた山菜は保存食として年間を通じて食卓に上がり、雪解け水が豊富だからこそ米や野菜の実りが良いなど、すべて雪とともに暮らしが成り立っています。それを観光という文脈で伝えていく。そのために、冬だけの訴求だけでありませんが、あえて雪国観光圏と名付け、インバウンド向けにもそのまま「YUKIGUNI」として、日本にはそういう文化があることを発信しています。

-雪国観光圏としてのコロナ対策はいかがでしょうか。

井口 井口 コロナが本格的に拡大した昨年の4月から、全国の観光圏と一緒に宿泊施設品質認証制度「サクラクオリティ」を導入しました。その取り組みの一環として、昨年7月からはコロナ感染対策に特化した認証を始めました。常時対策をアップデートし、現在では45項目ほどに増えています。

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