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地域とつながる旅館に向けて「旅館3.0」を加速―いせん代表取締役井口智裕氏

  • 2021年6月21日

コロナを契機に新しい取り組みも積極展開
雪国観光圏では雪国文化を発信

 新潟県越後湯沢で「HATAGO井仙」と「ryugon」を営むいせん。宿泊施設という枠組みを超えて、越後湯沢地域の雪国文化を体験する基点としての役割も果している。代表取締役の井口智裕氏は、その独自の文化を観光素材として広めるために、周辺の2市4町1村と地域連携DMO(観光地域づくり法人)の立ち上げにも携わった。「コロナ前の観光に戻ることはない」と話す井口氏に、新たな旅館のあり方を定義する「旅館3.0」の考え方とともに、ポストコロナに向けた取り組みについて聞いた。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

いせん代表取締役の井口智裕氏。インタビューはオンラインで実施した。
-まず、貴社のご紹介をお願いいたします。

井口智裕氏(以下敬称略) いせんは、新潟県の越後湯沢で「HATAGO井仙」と「ryugon」を運営しています。私は4代目で、2005年に旅館を受け継いだあと、昔ながらの旅籠文化を再現するコンセプトで「HATAGO井仙」にリニューアルしました。旅籠を基点として地域を巡ってもらう取り組みです。2008年には広域での観光圏づくりを始め、この地域独特の雪国文化を可視化する目的で、2018年に旧「龍言」をリニューアルし、新たに「ryugon」を立ち上げました。

-越後湯沢の観光産業の現状はいかがでしょうか。

井口 非常にコロナの打撃が大きいと思います。首都圏が6割を占めるマーケットとなっているため、緊急事態宣言などで厳しい現状が続いています。そのなかで二極化が進んでいることも事実です。個人の旅館は昨年のGo To トラベルの効果がありましたが、大型旅館の大部分は昨年、前年比で半分ほどの集客にとどまり、どのように経営を維持していくかが喫緊の課題です。

-宿泊状況をお聞かせください。

井口 昨年のGo To トラベルでピークだった11月は、ryugonの稼働率は96%で、平均室料売上(ADR) は4万2438円。HATAGO井仙は91%で3万3478円でした。しかし今年の4月は、ryugonの稼働率は26%でADRは4万9150円、HATAGO井仙は30%で3万3471円に落ち込みました。5月末までの年間平均では、ryugonが稼働率52%でADRは4万6769円、HATAGO井仙が59%で3万3061円となっています。昨年からかなり乱高下していますが、決算で見ると悪くはなっていません。

-コスト削減は実施されてきましたか。

井口 コストの削減というよりも、マーケットの変化に合わせてコストの使い方が変わってきました。これまでの旅館業はかなり無駄なことをしてきたと思います。一度コロナでリセットされたサービスをまた復活させれば、慢性的なコストの負担になるし、社員にも負荷がかかってしまいます。現在、コロナ前のサービスや仕組みを見直し、新しいものに変えていこうとしているところです。

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