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クルーズから宇宙旅行まで-東大でグローバルヘルス合同学会

  • 2018年1月24日

渡航医学会など3学会が最新の研究発表
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宇宙旅行の身体への影響を解説
課題は安全性と快適さ

講演中の河野氏   3日目の午前には、海外での健康維持に関するセッションが大多数を占める今回の学会では異色の講演会「宇宙に行くための医学」が催された。民間人も安全に宇宙へ行ける時代が到来し、すでに旅行商品を販売する旅行会社も現れているなか、宇宙滞在が身体に及ぼす影響や必要な訓練、医学的なサポートについて最新の研究結果を説明したもの。講師を務めた松本大学大学院健康科学研究科准教授の河野史倫氏は冒頭で、宇宙空間では一切の治療を受けられないこと、複数の疾病が同時に発生する可能性があることなどを説明した上で「宇宙医学こそが究極の予防医学」と前置きして講演を開始した。

 河野氏は、宇宙空間では主に「無重力(または微小重力)」「宇宙放射線」「閉鎖環境」の3つが身体に影響を与えることを解説。このうち無重力については、身体を支える骨格筋の不活動による萎縮を防ぐために、宇宙飛行士は滞在中に1日2時間のトレーニングをおこなっていることを紹介した。そのほか、長期間滞在した場合は骨量減少や起立性低血圧(立ちくらみ)を引き起こすことなども説明した。

会場の様子  宇宙放射線については、地上での被ばく量が1年あたり約1.5ミリシーベルトであるのに対し、宇宙飛行士の被ばく量は1日あたり1ミリシーベルトと桁違いであることを強調。一方で「宇宙放射線でがんが増加するとの報告はないのも事実」とも付け加えた。そのほか宇宙空間での滞在が身体に及ぼす影響として、滞在開始直後の「宇宙酔い」や帰還後の「地球酔い」についても紹介した。

 民間企業による宇宙旅行の現況については、専用機で高度約100キロメートルまで上昇し、無重力状態を4分程度体験できる約2700万円の「準軌道飛行」による旅行や、気球などで一定の高度まで上昇して地球を見下ろすことができる約800万円の旅行があることを説明。このうち準軌道飛行による旅行については、米国のニューメキシコ州の宇宙港から出発するヴァージン・ギャラクティック社の旅行商品について紹介した。日本国内の動きについては、エイチ・アイ・エス(HIS)、ANAホールディングス、20年の有人機運航開始をめざすPDエアロスペースの3社による宇宙旅行計画について紹介した。

 なお、河野氏によればヴァージン・ギャラクティックとPDエアロスペースは、宇宙旅行者の医学適性については特に定めていないとのこと。ただしヴァージン・ギャラクティックは社会的責任の観点から対象を18歳以上に限り、PDエアロスペースは航空機により微小重力を体験する事前訓練プログラムを販売しているという。

 河野氏は民間による宇宙旅行に求められる今後の課題としては「安全の確保」を強調。宇宙酔いや放射線被ばく、パニック発作、起立性低血圧などを宇宙医学により防ぐことが重要と説明した。また、地上での生活において求められる医学的な「クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)」と同様に、宇宙空間でも快適さが追求されるべきとし、身体機能の低下や帰還後の後遺症の防止、自立的な生活の回復が重要になると述べた。