法律豆知識(92)、旅行業者のための「中小企業と新会社法」―最終回

  • 2006年6月17日
 今回はシリーズの最終回として、新会社法の中で中小企業が知っておいた方がよいことを、拾い上げておこう。

<株主総会>
 非公開会社は、株主総会開催の日時について、従来の総会2週間前から1週間前に通知を出せばよいことになった。ただし、定款で2週間前と記載している場合は、これを変更する必要がある。また、従前の有限会社のように取締役会を設置しない会社は、定款でこの1週間をさらに短縮できる。
 総会の場所は、従来は本社所在地の周辺に限定されていた。新たな会社法では、こうした開催場所の制限は無い。そこで、大阪に本社がある会社でも、株主が東京に多い場合、その利便性を考慮して東京で開催することも可能となった。株主が少数の場合は、慰労旅行を兼ねて温泉で開催することも不可能ではないのだ。

<種類株主>
 内容の異なる種類株式の発行が容易になったのが新会社法の特徴の一つである。種類株式は、大きくまとめて9種類ある。上場をしていない中小企業は敵対的買収を仕掛けられる恐れが無いので、最近話題の「黄金株」等を仕掛ける必要はない。ただし、中小企業が利用可能な株式の種類は実は、結構な数がある。
 中小企業では、株式を譲渡するには取締役会の承諾が必要(株式の譲渡制限)とする定款規定があるのが普通だが、新会社法では、一部株式を譲渡自由にすることが可能となった。しかし、一部でも譲渡自由にすると、「公開会社」として扱われることになるので注意を要する。公開会社となると、会計処理も厳重になり、役員報酬の総額を開示しなければならないなど、会社の義務が増えるからである。
 議決権なき株式は利用価値がある。例えば、オーナーが自分の株式の相続対策をする時、後継者争いが起こらないよう、会社の後継者以外は議決権無き株式を取得させるような場合である。もっとも、議決権を奪う変わりに、配当で有利に扱うような株式とするのが普通である。
 社員に株式を持たせるときには、社員が辞めたときなどに会社が株式を買い取れるよう、取得条項付き種類株式にしておくと良い。取締役や監査役の選任権の有る株式と無い株式に分けることも可能である。人事権を一部の株主に集中できるわけである。この場合も、人事権を奪う代わりに、配当で優先させるような対応をするのが普通である。

<取締役の解任>
 取締役を任期終了前に解任しなければならないということもある。この場合、株主総会の普通決議(過半数の出席を集め、過半数の賛成)で可能となった。従来は、特別決議(過半数の出席を集め、3分の2の賛成)が必要だったので、新会社法では、解任が容易になった。
 もっとも、定款で解任の要件を厳しくすることは可能である。いずれを選択するかは、会社の将来を見据えて、対処を考えるべきであろう。

<その他>
 会社の設立にあたり、出資金は1円でも可能である。つまり、スタート時に、資本金のことは考えなくても良いのである。また、現物出資も簡便となっただけでなく、組織変更や再編などM&Aも容易になった。中小企業も、今後は、戦略的な、事業再編、事業再生が可能となったわけである。



   =====< 法律豆知識 バックナンバー>=====

第91回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜その4

第90回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その3

第89回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その2

第88回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜1

第87回 航空会社のストと困った客〜約款・消費者保護と事後対応

第86回 グループ・ブッキングについて〜国際旅行法学会の準備原稿


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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
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IFTTAサイト: http://www.ifta.org/