【会計士の視点】最早「ただの旅行会社」じゃない?コロナという逆境に対し、大きな変身を遂げたJTBの2026/3期決算書を分析
JTBの貸借対照表を分析
2021/3期を分析した時には貸借対照表について、「潰れないかどうか」という点で一番しっかりと見るべき」と言っていましたが、これだけ利益も出る体質になった以上、そこはさらっとやりつつ、むしろ前回記事の「答え合わせ」という点で見ていきたいと思います。
まず純資産については、2026/3期には1,623億円となり、コロナ前の2020/3期の1,572億円を上回り、有利子負債も2020/3期の177億円から13億円程度まで減っており、借入依存度も極めて低くなっています。このことから、コロナ禍のピンチを超えて、財務体質もかなり強靭になったと言えそうです。
その上で、前回記事で書いた内容としては
・2022/3期中に債務超過になるリスクがあり、それを避けるために増資等による自己資本の拡大を計画しているのではないか(債務超過を避けるには純資産を増やすしかなく、そして純資産を増やすには、基本的には利益を出すか、増資等で資本充実を図ることになりますが、今の環境では利益面が期待しづらいことを考えると、今は増資等も検討しているのではないか、というのがその理由)
・キャッシュについてはまだ余力があり、今は倒産を心配するような段階ではない
という感じでした。
まず債務超過リスク対策として増資を検討しているというのはやはり正解で、2022/3期には300億円の増資が行われておりました。2021/3期末時点で純資産残高は475億円で、2021/3期の経常損失が▲742億円だったことを踏まえると、この増資は債務超過を避けるための一手であったと考えられます。
また結果として倒産していないのは大前提として、「借入金残高が短期と長期を合算して1,076億円で、現金及び預金残高3,692億円と比べて小さく、またコミットライン契約も事業年度末時点で600億円、さらに4月30日には300億円追加したように、借入余地もある」と言っていましたが、実際には固定資産の売却や増資もあって、むしろ短期借入金・長期借入金ともに2022年3月期には減少させられるレベルとなっておりました。
この辺りは、2021年4月30日にコミットメントラインを追加していたように、当時としては「ありとあらゆる手を尽くして生き残りを図る」という感じだったのが、実際には助成金収入も含めると経常損益はむしろ黒字で、しかも増資や固定資産・株式の売却もうまく行き、結果としては借入金を純減させられるレベルまでいけたという感じだと思われます。
以上がJTBの決算書を分析して分かることでした。コロナの直撃した2021/3期には、過去20年分近い利益を一気に失ったレベルの巨額の損失を出しましたが、それを機に事業構造改革を行い、それが功を奏して今や「旅行会社」というよりは、「総合ソリューションを提供する会社」として、より付加価値の高い業務を行う会社となっております。
また上でも紹介したJTBのビジネスソリューション事業本部・渡辺紳氏のインタビュー記事にもあった、ワクチン接種業務について、「会場を押さえて人を動かすという我々の知見を活かし、事前の案内状の発送から当日の接種会場での運営、つまり出迎えから、安全にお帰りいただくまでのフローをひとつのかたちにし、事業として行政の課題解決に寄り添っていったところが大きな転換点だったと思っています」という部分が個人的には印象に残っており、こうした「元々旅行業で培った知見」を活用して、コロナのワクチン接種という特殊需要を取っただけでなく、その後のビジネスソリューション事業や、エリアソリューション事業の拡大にも効いているのではないかと考えられます。
コロナという大ピンチに立ち向かう中で、事業構造を変え、さらに自社の「強み」を横展開できたことで大きく利益を伸ばしたJTBは、まさに「ピンチをチャンスに変えた成功例」と言えるのではないでしょうか。
まとめ
・JTBは、売上高についてはコロナ前の水準には戻っていないが、コロナ禍の中で行った一連の事業構造改革が非常にうまく行き、利益は増加している。
・セグメント別に見ると、ツーリズム事業はコロナ前の水準に戻っていないが、コロナ禍を機に事業の柱としたビジネスソリューション事業とエリアソリューション事業については大きく伸びており、特にビジネスソリューション事業はツーリズム事業と並ぶ2本柱と言っても良いレベルまで成長し、つまりJTBはもはや「旅行会社」ではなく「総合ソリューションを提供する会社」になっている。
・その結果貸借対照表を見ても、自己資本はコロナ前の水準を超え、借入依存度も大幅に減少し、財務体質も強靭になっている。
東京大学経済学部卒業後、大手監査法人、コンサルティング会社を経て、現在は玉置公認会計士事務所に所属。監査業務の他、非上場会社の株価算定やデューデリジェンス、企業へのコンサルティング、決算支援、再生支援等をおこなう。