【会計士の視点】最早「ただの旅行会社」じゃない?コロナという逆境に対し、大きな変身を遂げたJTBの2026/3期決算書を分析
公認会計士の玉置繁之です。JTBの決算書については、コロナ禍真っ只中の2021年に分析して寄稿したこともありましたが、コロナ禍も過ぎ去った2026年現在、当時も振り返りながら、どのようにJTBという会社が変わっていったのかを分析したいと思います。
JTBはコロナ禍という大きな逆境の中で構造改革を行い、その結果として、今は売上高はコロナ前に及ばない一方で、営業利益は増益し、また2021年3月期の分析では「過去20年近い利益を一気に吹き飛ばす大損失」「このままでは債務超過のリスクもありうる」という状況だったのが、今や純資産もコロナ前を超える水準になり、借入残高も大幅に減少しております。
このJTBの復活は、「アフターコロナのインバウンド需要」だけでは説明がつかず、むしろコロナ禍の中で行った事業構造改革で「旅行だけにとどまらない、総合ソリューションを提供する高付加価値型の会社」に生まれ変わったことが大きく効いていると考えられます。
本記事では、公認会計士の目線で決算書を中心に公開情報を分析することで、JTBがどのようにコロナ禍に立ち向かい、どのように事業構造改革が効いたのかを見ていきます。
なお、恒例の注意事項ですが、筆者はJTBとの間に特別な関係はなく、内部情報は一切知らない中で外部情報からの分析のみで検討を行っております。
また当記事はあくまで筆者の私見であり、筆者の所属する団体や、掲載媒体であるトラベルビジョンの見解ではなく、また特定の銘柄への投資の推奨等を目的としたものでもないので、その点はご了承頂ければと思います(JTBは非上場の会社ですが、一応)
JTBの損益計算書を分析
まずは損益を直接的に見ることができる損益計算書から分析したいと思います。コロナ前後も分かるように、10年間の推移で分析すると、以下のようになっております。
これを見ると、
・コロナの影響がもろに出た2021/3期には▲975億円の営業赤字で、親会社に帰属する当期純利益も▲1,015億円と大赤字(前回の記事でも書いたように、これは20年近い利益を一気に失ったレベルの大損失)、2022/3期も営業赤字は▲48億円と縮小したものの赤字が継続し、ただし営業外収益や特別利益もあって、親会社に帰属する当期純利益は284億円の黒字。
・2023/3期からは営業利益も黒字に戻し、しかも黒字幅はコロナ前に比べても大きい。
・ただし、売上高については、徐々に戻ってはいるものの、コロナ前の水準には及んでいない。
ということが分かります。
コロナについてJTBの決算期との対応も含めて時系列を簡単におさらいすると、
【2020/3期】
・2020年2月後半から3月前半にかけて世界的なパンデミックとなる
【2021/3期】
・2020年4月に緊急事態宣言が出て、以降2021年9月まで、多い地域では計4回にわたって緊急事態宣言が出る
・2020年7月にはGoToトラベル事業を開始するが、感染再拡大により12月には一時停止
・2021年2月から医療従事者向けにワクチン接種開始
【2022/3期】
・2021年4月にワクチン接種対象に65歳以上の高齢者が含まれ、6月にはそれ以外の人にも接種対象が拡大
・2021年7月から8月にあった東京オリンピックは大半の会場で無観客で実施
【2023/3期】
・2022年10月に査証免除措置の再開と入国上限撤廃し、全国旅行支援も開始
・2023年3月にマスク着用が「個人の選択」とされる
【2024/3期】
・2023年5月に第5感染症へ移行
・2023年12月に全国旅行支援が全都道府県で終了
と、JTBの決算期との絡みで見ると、
・2020/3期は最後の最後にギリギリ入ったもののほとんどの期間は正常状態
・2021/3期はコロナ禍の真っただ中
・2022/3期は多少は"Withコロナ"の機運も出てきたもののまだコロナ禍の中
・2023/3期は徐々に正常化が進んでいく
・2024/3期はほぼ正常化
・2025/3期移行は完全に正常状態
という感じで、特に売上高を見ると、その傾向とほぼ連動していることが分かります。
その上で、粗利率、販売費及び一般管理費、営業外損益と特別損益の推移をみると、
・粗利率はコロナを機に上昇し、コロナ前は21~22%程度であったのが、コロナ禍の中の2021/3期と2022/3期は29%台、それ以降も25%前後を維持。これは、コロナ禍の中では「人が来ない原因が値段の問題ではない」という環境で、普段のように積極的なプロモーションを行わなかったり、「赤字覚悟の大安売り」というものがなくなって粗利率が改善するのは珍しくないものの、正常化以降については、別途分析が必要(後述)。
・販売費及び一般管理費は、コロナ前の2020/3期は2,807億円であったのが、2021/3期は2,056億円、2022/3期は1,784億円と大きく減少し、それ以降徐々に上がっているものの、2026/3期でも2,697億円とコロナ前よりも少ない水準。ここ数年間は「賃上げ」「物価上昇」が大きなテーマとなっており、さらにJTBの決算説明資料によると「専門人財の採用や賃金改善、財務基幹システム刷新、AI・デジタル分野への積極的な投資」等も行っている中での削減であり、これはコロナ禍の中での人員削減・店舗削減・オンライン売上の強化、本社機能のスリム化等の事業構造改革で、より筋肉質な事業構造になっていたことが今もなお効いていると考えられます。(ただし、販売費及び一般管理費の明細は公開されていないため、詳細にどの施策が効いていたかを外部から特定するのは困難です)
・営業外収益については、助成金収入があった2021/3期と2022/3期が多額(2021/3期は営業外収益259億円のうち199億円は助成金収入、2022/3期も営業外収益128億円のうち99億円が助成金収入)。なお、2023/3期以降は要約損益計算書となり、細目は不明ですが、トータル金額も78億円と小さくなっており、正常化した2025/3期が51億円のことから、おそらく2023/3期に10~20億円くらいあったかどうかと思われます。
・特別利益については、2022/3期の固定資産売却益316億円、関係会社株式売却益114億円があり、これは当時の報道なども調べると、おそらくJTB本社ビルや大阪のJTBビルの売却、福利厚生代行を手掛けていた当時の子会社JTBベネフィットの売却によるものと考えられ、2022/3期に営業損失が▲48億円、助成金収入も含めた経常黒字が38億円の中で、親会社に帰属する当期純利益を284億円も出せたのは、この影響が大きい。
・特別損失については、2021/3期は減損損失154億円、早期退職関連費用79億円、関係会社株式売却損25億円、事業再編損失26億円と多額で、2022/3期も減損損失113億円、商品券回収損失引当金繰入費50億円と多額だが、2022/3期は上記特別利益でカバーできている。
と、営業外損益や特別損益などの特殊要因を除けば、粗利率の向上と、事業構造改革によるコストダウンによって営業利益水準が上がっていることが分かります。
そこで、次に「粗利率の向上」をどうやって達成したのかについて、セグメント情報を見ながら分析したいと思います。
