海外インフルエンサーからみたインバウンド-ベルトラ創業者 荒木篤実氏

  • 2026年3月4日
プライベート町屋でのお座敷遊びを楽しむ海外からのお客様

 ミュージシャンを目指している若者がいる。彼は現実的な収入はごくわずかで日々の暮らしもギリギリのライン、毎日が汲々としているようだ。その彼が、私の勧めで新たに海外客向けの日本文化体験サービスを開始した。

 その後、初予約が入ったという連絡があり、現状把握のため現地に飛んだ。当日、お客さんから開催場所がわからないと連絡があり、いきなり問題発生である。ただ、これはよくあるGoogle Mapのバグらしく、迷っている場所に検討がつくと言い放つや否や、彼は迎えに飛んでいった。

 ほどなくして、お客さん達の姿が見えてきた。どうやら若いアジア系の女性2人組である。2人ともほぼ同じファッションをしている様子から仲良しとみてとれる。町屋の格子門の前でお出迎えの挨拶をした。二人は旅慣れた様子で、どこからきたのか聞くと、中国本土だという。ただうち1人はイタリア在住とのこと。確かにほぼ癖のないインターナショナルな英語であった。

 飲み物を聞くと、水でよいという。続いて、プログラムの説明に入り、予め待機させていた演者を紹介した。名前と芸歴などを説明すると、すぐにスマホで検索をはじめる。そのあたりから、おや、と思い始めた。こちらの説明より自分で調べるのだなと。これはもしやと思い、仕事を尋ねてみると、自らを有名なインフルエンサーだという。自らを有名と自慢する輩に大物はいないとは思いつつも、驚いてみせることで、ユーザ満足をあげる方向性に舵をきった。それが奏功したのか、あれこれとこちらのサービスの改善点を話してくれるようになった。

 最初のサービスが終わり、次のプログラムに進もうと、演者を紹介しようとした際のことだった。インフルエンサーの1人の女性が、うわぁと声をあげた。あなた、すごく有名な方ですよね?と。そして自ら握手を求めて感動を露にしていた。

 演者の方も、ここ数年は日本人のご贔屓筋は激減してしまい、9割が海外からのお客様だという。もともとインテリな方でもあり英語も堪能だったので、どんな質問にも実にうまく対処していた。

 演技がはじまると、さすがベテランの演者さんらしく、場の空気が一気にプライベートな贅沢三昧ステージへとかわった。所作も美しく、二人も、じーっと食い入るように見つめつつ、片手には動画撮影のスマホがしっかり固定されていた。演目終了後は、日本の伝統的なお座敷遊びをご体験いただき、きゃっきゃっと大盛り上がりで幕を閉じた。

 最後の締めにと、もっと改善できる点を11項目も教示してもらった。勘違いされた部分もあったがあえて一切反論せず拝聴し、お礼を申し上げた。が、なかにはなるほどと、うなる部分もあった。ただ、1番響いたのは、どうしてこんな素晴らしいサービスをこんな安い値段で提供するのだという一言だった。

 彼女曰く自分なら最低でも倍の値段をつけると。ニューヨーク、ロンドン、ミラノなどの有名レストラン等の現地サービスを紹介するインフルエンサーらしく、あなたのサービスなら最低でも400GBP(日本円で8万円程)は取るべきだと力説してくれた。欧米の現地通貨の感覚値は、1通貨単位あたり120円程度で換算すると、実際の海外顧客の感覚に近いものとなる。つまり最低5万円弱はとれよ、というアドバイスだった。

 いまや、日本は右も左もインバウンド頼みである。それ自体を否定するつもりも揶揄するつもりもない。どこの国でも海外からの客は金脈であり、ありがたいものだ。だが、世界の物価水準に慣れていないと間違った値付けをしてしまう。もちろん、中身が薄いのに、グローバル価格をつけても逆に客を失う。そのバランス感覚は大事だ。品質がしっかりしたサービスを、他社が安くやっているからと、自らも値段勝負で対峙しようとしてはいけない。この点は、今回大きく学習させていただいたポイントであった。

荒木篤実
パクサヴィア創業パートナー。日産自動車勤務を経て、アラン(現ベルトラ)創業。18年1月から現職。ベンチャー経営とITマーケティングが専門。ITを道具に企業成長の本質を追求する投資家兼実業家。