TIFS会員インタビューVol.16 大阪から全国へ、宿泊・地域連携・サウナで仕掛ける持続可能な観光-インプリージョン 小田切聡氏

  • 2025年5月29日
  • 出典:一般社団法人新観光創造連合会(TIFS)

 TIFS会員の取組をご紹介するシリーズ第16弾は大阪を拠点に、観光・宿泊・農業・サウナと多彩な地域活性に挑む小田切聡氏。現場視点のコラムでもおなじみの同氏に、大阪から全国へ広がる取り組みと、その背景にある思いを聞きました。

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-観光業との関わりはどのように始まったのでしょうか?

小田切聡氏(以下敬称略) 自分で商売を始めたのは27歳のときでした。大阪で生まれ育ったこともあり、「もっと地元の魅力を多くの人に知ってもらいたい」という気持ちから、情報発信の仕事としてポータルサイトやフリーペーパーの制作などに取り組んでいました。

 そんな中、「大阪に詳しいなら案内してくれないか」と言われるようになり、社員旅行や地元の会社の従業員の方々に大阪を案内するような仕事も始まりました。 2、30人規模の企業からの依頼が中心で、地元のスポットや食、歴史などを絡めながらオリジナルなプランを提案するスタイルでした。

 そのうち旅行会社からも、「大阪現地でのオプション手配をお願いできないか」といった問い合わせが増え、修学旅行や企業研修などの対応も含めて、大阪で観光客を受け入れる役割がどんどん大きくなっていきました。

-そこから全国の地域支援へと活動が広がったのは?

小田切 大阪で培った観光受け入れのノウハウが評価され、「うちの地域でも何かできないか」と全国各地の自治体や観光協会から相談を受けるようになったのが10年ほど前のことです。それからは、観光体験プログラムや街歩きツアーの企画、観光人材の育成まで、内容は多岐にわたります。地域ごとに風土も文化も違うので、現地に通い、関係者の話を聞きながら一緒に作っていくプロセスそのものがとても楽しいんですよ。ただ、その一方で大きな壁も見えてきました。

 地方では、どうしても観光客の数が限られてしまいます。大阪のように一定のボリュームがあれば、企画を重ねていく中でビジネスとしての収支が合ってきますが、ローカルエリアではそう簡単にはいきません。どれだけ魅力的な体験プログラムを用意しても、定期的に人が来てくれるわけではないので、継続が難しい。結果的に、せっかく作ったプログラムが数年で廃れていく。そうした事例を多く見てきました。「どうにかして、このサイクルを変えられないか」と考えたとき、地域にしっかりお金が落ちる仕組みを作る必要があると強く感じました。

-その解決策として、「宿泊」に着目されたのですね?

小田切 はい。体験プログラムは地域の魅力を伝えるには非常に良い手段ですが、どうしても価格が安くなりがちで、事業としては厳しい面があります。例えば、 日本人向けのまち歩きツアーを1万5千円で販売するのは難しく、5000円が上限。ある程度の人数が来てくれない限りガイドの人件費や準備コストで赤字になってしまう。

 一方、宿泊ならば1泊1万円以上の売上を生みやすく、地域に人が滞在してくれることで飲食や買い物の波及効果も期待できます。特に相性が良かったのが農業との組み合わせです。梅やお茶、梨など季節の作物を扱う農家の方々は人手を求めており、旅行者が手伝いながら泊まる仕組みは両者にとってメリットがある。ちょうどコロナ禍の頃から、この仕組みを「ふるさとシェアリング株式会社」として本格化させました。