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【会計士の視点】新規事業の成功と費用削減のハンドリングの妙、大復活のポイントを柴田社長に聞く-エアトリ編

  • 2022年1月26日

コロナ大打撃によるピンチから過去最高の利益を確保
ヘルスケア事業は旅行との相乗的な需要を取り込む

 今回は2020年9月期にはピンチの状況だったのが、2021年9月期に大復活を遂げたどころか、過去最高の営業利益まで達成したエアトリ社について、公認会計士でもある筆者が分析しました。

 なお、恒例の注意事項ですが、筆者はエアトリ社との間に特別な関係はなく、内部情報は一切知らない中での外部情報からの分析+取材で頂いた回答を基とした分析となっております。また当記事はあくまで筆者の私見であり、筆者の所属する団体や、掲載媒体であるトラベルビジョンの見解ではなく、また特定の銘柄への投資の推奨等を目的としたものでもないので、その点はご了承頂ければと思います。

2020年9月期の決算書では予断を許さない状況

 まず2020年9月期の決算書を見ると、エアトリはその時点では大ピンチと言っても過言ではない状態だったことが分かります。

 簡単にその理由を書くと、

  • これまで連結ベースで10億円弱くらいの当期利益水準であったのが、1年で▲88億円の損失

  • BSでも、自己資本比率が2019年9月期には25.3%だったのが、2020年9月期には3.4%まで落ちて、親会社持分も97億円から19億円までになっていた

  • 決算説明資料によると、GoToトラベルの追い風もあって2020年10月単月は黒字であったものの、2020年9月期の第4四半期時点でも連結営業損失が▲6億円となっていた


という感じです。

 2020年9月の赤字が大きいのは、決算説明資料によると74億6000万円の減損損失を計上したことが大きな原因で、「今後のさらなる減損リスクはほぼない状況」ということで、膿は出し切った状態ではあったようですが、それでも第4四半期時点でも営業損失が▲6億円もでていて、仮にこの第4四半期の営業損失のペースが続けば、2021年9月期に債務超過に陥る可能性もあるような状態でした。

 ちなみに、2020年9月時点で倒産しそうであったかと言われると、流動比率は連結130%、単体112%と100%を超えた水準で、また期末時点での有利子負債残高も前年度と比べて減っており、当時の情勢を考えると借入余力はあったと考えられ、「すぐに潰れそう」という状況ではなかったと考えられます。

 このように、もし私が2020年9月時点で分析しろと言われていたら、「すぐに潰れるような状況ではなく、またGoToトラベルや費用削減の通期化といったプラス材料もあるものの、とはいえ予断を許さない状況であり、今後売上・粗利と販管費がどう動いていくかをちゃんとモニタリングする必要があります」というコメントをしていた気がします。

2021年9月期の大復活劇

 しかし、こうした状況から2021年9月期に大復活を遂げて、営業利益31億円、当期利益25億円という大幅な黒字を出すことに成功しています。

有価証券報告書-第15期(令和2年10月1日-令和3年9月30日)より抜粋

前期との比較で見ると、

  • 売上高は減少したものの、それ以上に売上原価が減少しており、売上総利益はむしろ増えている

  • 販売費及び一般管理費が大幅に削減されており、その割に売上の減少幅が小さく済んでいる

  • 子会社の支配喪失に伴う利益や投資損益等、スポット的な利益もあるが、その影響を抜きにしてもコロナ前以上の水準の利益を出すことができている


ということが分かります。

 「コスト削減」というのは前期の決算説明資料でも施策として書かれており、また赤字の会社にとってはまず一番大事な施策であるのは間違いないですが、とはいえ「コストを削減しても売上がそれ以上に下がってじり貧になる」ということもよくあり、そんな中で「売上高は減少したとはいえその減少幅を抑えて、利益ベースで見た時に大幅プラスに持っていく」というのは、非常に難しいことと言えます。

 なお、セグメント情報を見ると、投資事業やITオフショア開発事業も利益を出しているものの、それ以上にオンライン旅行事業で大きな利益を出していることが分かります。

【2020年9月期】

有価証券報告書-第15期(令和2年10月1日-令和3年9月30日)より抜粋

【2021年9月期】

有価証券報告書-第15期(令和2年10月1日-令和3年9月30日)より抜粋

 このように、コロナ禍の中で一番打撃を受けやすいオンライン旅行事業でもきちんと利益を出して、それによって過去最高益を出していることが分かります。

エアトリ代表取締役社長 兼 CFO 柴田裕亮氏

 それでは一体その要因は何なのか、決算書の分析や決算説明資料の読み込みをやっていたのですが、正直その資料だけでは分からないことも多かったので、トラベルビジョンを通じてエアトリに取材をお願いしたところ、なんと代表取締役社長兼CFOの柴田裕亮氏ご本人から回答いただくことができました。

 そこで、「私ならこの決算書を見ると、こういう点に質問をしたい」という点と、それに対しての回答をまとめて書いていきたいと思います。なお、今回は通常ではありえないような方に回答いただくことができましたが、普通に決算分析するのであれば、IRに電話してこういう内容をヒアリングするかと思います。

 なお、この取材は2021年12月22日時点でおこない、当時はまだ有価証券報告書も出ていなかったので、決算短信と決算説明資料をもとに質問をしております。

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