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令和4年度の観光庁関係予算決定概要を読んでみる-RT Collection 柴田真人氏寄稿

予算の割り当てが増えた「宿泊業の高付加価値化」、人材育成支援も

 令和4年度で大幅に予算が上がったのが、「新たなビジネス手法の導入による宿泊業を核とした観光産業の付加価値向上支援」です。令和3年度では1億円の予算だったものが、令和4年度では前年比548%増の5億5000万円となっています。これは、地域の観光の核となる宿泊業が新たなビジネス手法で複数業種等の連携による新規サービスを導入することや、地域に波及する生産性向上及び高付加価値化を目的としたものです。

 昨年訪れた滋賀県の大津市で宿泊業の新しいビジネス手法をまさに体験しました。大津市にある町屋スタイルのホテル「講・大津百町」では、ホテル主催で同じ地域にある商店街ツアーを実施していました。

ホテル「講・大津百町」

 商店街ツアーを通して、大津祭曳山展示館では大津の歴史を知ることができ、また地元の食材を使った老舗の漬物屋や和菓子屋なども知ることができました。商店街ツアーなら他にもありそうですが、このホテルにはレストランがなく、商店街ツアー中に知ったおすすめの食事処やホテルスタッフから教えてもらえるレストランで夕食や朝食を食べることになり、地域内にお金が循環する仕組みになっています。

 これは令和4年度の資料にも記載されている「泊食分離による魅力の向上」に当たり、それをすでに実践されていました。地域に波及する宿泊業の高付加価値化であり、このような宿泊業の新たなビジネス手法が今後さらに生まれることを期待しています。

大津商店街ツアーで巡った老舗の漬物店

ホテルスタッフに教えてもらった食事処「アケミ」の定食

 その他の予算で増加しているものには、観光産業の変革の分野において「観光産業における人材確保・育成事業」が前年比6%増の1億2600万円、「通訳ガイド制度の充実・強化」が前年比17%増の6600万円、国際交流の回復に向けた準備・質的な変革の分野において「MICE誘致の促進」が前年比32%増の2億5100万円などがあります。

 観光業における人材不足を解消するために、近年では産学連携の観光経営人材の育成講座が増えてきました。短期間で受講できるものも多く、令和3年度では京都大学経営管理大学院や立教大学、東洋大学などが実施しています。観光地経営を担う人材や外国人労働者をマネジメントできる人材などの育成が必要になっていることがわかります。また、コロナ禍において国際交流の回復を目指すためには、FITの自由旅行よりも顧客管理がしやすいインセンティブなどのMICEに注力していくことが令和4年度の予算からもわかります。

 一般財源や国際観光旅客税財源以外になりますが、東日本大震災からの復興枠の予算の中で「ブルーツーリズム推進支援事業」が新規予算として2億7000万円計上されています。これは、海にフォーカスしたプロモーションの強化や施設の整備、コンテンツ開発などの支援に当たります。

 民間企業の予算でもそうですが、前年の予算との増減を比較することでどのような事業により力を入れていくのかがわかります。もしお時間があれば、観光庁の令和4年度・観光庁関係予算決定概要に目を通してみましょう。

柴田 真人 / Masato SHIBATA
大学生時代にオーストラリアのタスマニア島で過ごし、旅行会社に就職。15年間の旅行会社勤務時代には主に東南アジア方面の仕入れや企画に従事。また、フィリピンでの5年7ヵ月間の海外赴任を通して、アウトソーシング事業の立ち上げからインバウンド事業における現地支店の立ち上げ及び日本マーケット初のチャーター便運航のプロジェクトなどを経験。その後、2018年に合同会社 RT Collectionを設立。