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【ホテル総支配人リレーインタビュー】第10回 東京ステーションホテル常務取締役総支配人 藤崎斉氏(前編)

  • 2021年11月11日

最優先のKPIはリピート率、緊急事態宣言下も続けた朝食ブッフェ

―最近、家族でこのホテルのコーヒーショップを利用したのですが、スタッフの対応が素晴らしく、「ホテルの格ってよく分かってなかったけれど、こういうことだったんだね」と言っていました。

藤崎 グローバルブランドのホテルがKPIの最上位に置くのは一般的に利益率です。しかしこのホテルが最優先するKPIはリピート率です。スタッフには「私たちがすべきことは、お客様に『良かったよ、また来るよ』と言っていただくことで、そのために何ができるのかを考え抜こうよ」と話しています。それさえ徹底できれば、収益や稼働率をどうするかといった部分はマネジメントがバックエンドで支え、プラットフォームを用意しておけばいいわけです。リピート率をKPIの最優先とすることは、遠回りに見えたとしても、リテンションコストとアクイジション(新規獲得)コストの関係から見ても、最終的にGOP(営業総利益)を最大化する最良の方法だと確信しています。

―コロナ禍の影響はいかがでしょう。

藤崎 コロナ前の稼働率は80%以上、現在(2021年10月時点)は30%台前半。50ポイントほど落ちています。しかし客室単価は維持しています。競合他社との客室単価の差は、2019年にはスペックも違うので1万5000円から2万円程ありましたが、現在は1000円から2000円程度。つまり競合他社は価格を下げたわけですが、客室稼働率は劣後していません。つまり我々の仮説は間違っていなかったと思います。単に価格を下げても需要喚起につながりません。

 これまでは価格を下げればボリュームが増す需要曲線で説明がつきました。いわばレベニューマネジメント1.0の理論です。2019年まではそれでよかったかもしれません。しかしコロナ禍後はこの理論が通用しないと思います。もちろん通用するホテルセグメントや地域はあるでしょう。しかし全てのホテルには当てはまらないと思っています。

 今何が求められているか、お客様の反応に目を凝らさねばなりません。他ホテル同様、宿泊客アンケートを行っていますが、私が特に注目する項目は2つ。「価格に見合っていましたか」と「このホテルを友人知人にお勧めいただけますか」です。この2項目の達成率が何年も前から90%を超えています。

 私にとって最高のコメントは「決してお安くはないですが、その価値は充分にありました」です。そういう評価をいただくには何をしなければならないのか、皆で考え抜いて常に仮説、検証を繰り返し積み上げていくしかありません。

 以前、アンケートの職業欄に「年金生活者」と記入があったお客様のコメントに「このホテルに妻と泊まるのが夢でした。ホテルで過ごした時間で生きる力をもらいました。明日からまた頑張ってお金を貯めて必ず戻ってきます」とありました。これこそが私達が目指すべき姿だと思っています。そして私達が届けているものは間違っていない。お客様にもきちんと届いている、大丈夫だと伝えました。そう思えるのは再開業以来、皆で日々積み上げてきたものがあってのことで、一夜にしてできるものではありません。

―確かに簡単には真似できません。

藤崎 コロナ禍によって日本全国のブッフェが中止になりましたが、当ホテルの調理部と料飲部は諦めませんでした。私が指示したわけではないのに現場が続けたいと言ってきました。「朝食ブッフェは人気が高く、そのために宿泊するお客様もいるのだから、ブッフェを諦めません」と、自分達で衛生面の対策を徹底的に考え抜き、自発的にニューブッフェの説明会を行い、社内を説得しました。そして皆で日々工夫を積み重ね、少しでも効率をよくするため食材ロスを減らす知恵なども出し合い、朝食ブッフェを続けました。昨年4月から6月までの3ヶ月間だけはやむを得ず中止しましたが、それ以後は緊急事態宣言下でもブッフェを継続し続けており、お客様からも「これだけ徹底した感染症対策には相当手間がかかっているはずで頭が下がります」と評価していただくまでになっています。

※後編は近日中に掲載致します。