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【ホテル総支配人リレーインタビュー】第10回 東京ステーションホテル常務取締役総支配人 藤崎斉氏(前編)

  • 2021年11月11日

最優先のKPIはリピート率、緊急事態宣言下も続けた朝食ブッフェ

 第9回のザ・キャピトルホテル東急の末吉孝弘総支配人からバトンを渡されたのは、東京ステーションホテル常務取締役総支配人の藤崎斉氏。リピート率をKPIの最上位に置くマネジメントを貫き、スタッフと一体となって競合他社も一目置くラグジュアリーホテルを創り上げてきた藤崎総支配人。その言葉は、コロナ禍後の新時代に必要なものを探る手掛かりとなるはずだ。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

東京ステーションホテル 常務取締役総支配人の藤崎斉氏

―藤崎総支配人の自己紹介からお願いいたします。

藤崎斉氏(以下敬称略) もともと観光業を目指していたわけではなく大学も経済学専攻でした。ただ学部外講座で参加した観光学科の講義で、非資源国の日本をこれから支えるのは観光だという説明を聞き、観光のポテンシャルは理解していました。

 ホテルビジネスに就いたきかっけはリクルートグループのホテル会社でアルバイトをしたこと。大学卒業時に、当時ホテルや一大リゾート開発に取り組んでいたリクルート本社から、ぜひ参加しないかと誘われ、そのまま就職しました。しばらくしてホテルビジネスをライフワークにするならグローバルスタンダードを知っておくべきだと考え、当時赤坂から新宿への移転を控えて開業準備室の人材を募集していたヒルトンに紹介があって転職しました。いずれはリクルートに戻るつもりでいましたが、気が付けばヒルトンで約18年間を過ごすことになりました。その後、ウエスティンホテル東京やJALホテルズ本社勤務を経て、JR東日本より東京ステーションホテルの誘いを受けて2011年に再開業準備室室長として入社し、2012年の再開業後は総支配人を務めています。

-東京ステーションホテルの概要と特徴をご説明ください。

藤崎 開業は東京駅の駅舎が完成した翌年の1915年。国内外の賓客をもてなすため半ば国家政策として造られたホテルで、当時は帝国ホテルと並ぶ名門ホテルと称されました。

 2000年代に入って東京駅開業100周年に向け駅舎を創建当初の姿に復原することになり、ホテルは2006年に休業。約6年半の工事期間を経て2012年10月に再開業しました。駅舎は2003年に重要文化財に指定されており、東京ステーションホテルは日本で唯一、重要文化財に宿泊できるホテルでもあります。こうした歴史的背景に基づくプライスレスな価値がこのホテル最大の魅力と言えると思います。

 ただしホテルのオペーレーターとしては非常に使いづらい建物です。横方向に全長335mもあってお客様は長い廊下を歩かざるを得ません。重要文化財なので数々の制約もあります。その制約があるなかでどうしたらホテルの魅力を伝えられるかが課題でした。そこで再開業前に全員を集め「我々がお客様にお届けするのはスペックではなくストーリーだ」と基本方針を伝えました。スペックに関しては、近隣にある著名ブランドのホテルは客室面積が最低でも40から50平方メートル以上あるのに対し、我々は客室全体の35%ほどが30平方メートル以下。他ホテルが売りにしている眺望に関しては、プラットホーム側の客室のビューはありませんし、婚礼用の専用チャペルもありません。

 しかし歴史を背景とするストーリーは、学べばいくらでも掘り出せます。そこに現在のホテルスタッフが紡ぐ新しいストーリーが加わり、新たなヒストリーを作っていく。再開業以来9年間、全員でそれに取り組んできたからこそ現在のホテルの評価があると思っています。

 ホテルの全員がミッションステートメントを携行しています。その基本的な考え方は「お客様の気持ちに寄り添い記憶に残るホテルになるために、私たちは何ができるのかを考え抜くことが、このホテルのあるべき姿」というもの。これが唯一のルールと言ってもいいと思います。スタッフはこの共感力さえ理解していれば、目の前のお客様に全力で尽くすにあたり、誰かの承認を得ずとも臨機応変に判断していいことにしています。

 ホテルの真の価値を作り出すのは現場ですから、総支配人が全てを指示するのではなく、全員が自ら考え、行動することが本当に重要です。価値を作り出す現場のために何ができるかを考えるのがホテルのマネジメントであり組織であるべきだと考えています。

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