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公認会計士が教える会計知識vol.5 固定資産の減損ーゼロベース代表 渡邊勇教氏寄稿

固定資産の減損

減損が必要な場合とは

 では具体的に、どのようなケースで減損を認識しなければならないのでしょうか。それは、以下の2つのいずれかの条件を満たした場合になります。

1)資産の流通価格の大幅な下落
2)想定していた収益確保が難しくなった場合

 この2つに触れた場合、「固定資産の減損を考えなければいけないか?」と思うことが大切です。その後の計算方法は、兆候の判定、減損の認識、減損金額の測定の3つのプロセスを踏むことになります。それは会計の専門家に依頼すればよいのですが、ざっくりと減損するべき金額は、次の式により算定されます。

1)資産の流通価格が大幅に下落した場合

帳簿金額(※)- 流通している価格



2)想定していた収益確保が難しくなった場合

帳簿金額(※)- 将来獲得できる収益の見込金額


※帳簿金額とは、取得価格-減価償却累計額(過去の減価償却費の累計金額)

減損をすることは実務的に難しい!?

 減損をする、ということは会計士として実務に当たっていた際に非常に難しい項目でした。なぜかというと減損から生じる損失、すなわち減損損失は、「経営者の投資意思決定の失敗の金額」と捉えられるからです。

 2)の想定していた収益確保が難しくなった場合をご覧ください。設備投資の当初は、以下の数式が成り立つから投資をするわけです。

投資金額 < 将来獲得できる収益見込金額

 これが当初の見通しが外れて、もしくは予定が狂って以下のように符号が逆転してしまった状態が、減損が必要なタイミングです。

投資金額 > 将来獲得できる収益見込金額

 なぜ減損損失の計上が難しいのかというと、次の3つが主な理由になります。

・経営者の意思決定のミスだった、と表明することになるため、社内調整が大変
・将来の予測なので絶対的な答えがない
・影響金額が数億円に上り、業績に与えるインパクトが大きいことが多い

 ただし、減損損失の計上が実務的に難しかったとしても、資産性の乏しい資産は、現時点の資産価値に見直す、ということが安全経営においてとても重要な判断になりますので、経営者の方々は、その点を認識することが重要です。

 なお、減損損失は会計上費用として処理されますが、税務上は認められません。税務上はあくまでも課税の公平の観点から、時の経過とともに減価償却によって費用処理することしか認められません。そのため、減損損失を計上した場合、会計上の減価償却費と税務上の減価償却費の両方を計算し続ける必要が出てきます。

まとめ

・減損会計とは、投資した固定資産による収益が期待以下だった場合、もしくは時価が著しく下落した場合に、投資の失敗を損益計算書に反映することをいう。
・減損会計の目的は、投資家や債権者といった利害関係者へ「投資の失敗」の事実をタイムリーに伝達する点にある。潜在的な損失を早期に開示し、より正確な現状を示すために必要な会計処理。
・資産の価値とは、市場価格もしくは収益の現在価値に基づく資産価値をいう。
・減損が必要なケースは以下の2つのうちいずれかを満たした場合。
 1)資産の流通価格が大幅に下落した場合
 2)想定していた収益確保が難しくなった場合
・減損損失の計上は、兆候、認識、測定の3ステップ。
・減損損失の計上は、経営者の投資意思決定の失敗と捉えられることが多く、計上までに時間がかかる傾向にある。

<過去の記事はこちら>
第4回 固定資産と減価償却~具体的な会計処理と中古資産の考え方~
第3回 固定資産と減価償却~そもそも固定資産って?~
第2回 会計における3つの集計方法を解説
第1回 会計に出てくる資料の解説と決算書を読むポイント

渡邊勇教
公認会計士。邊勇教公認会計士・税理士事務所、ゼロベース代表
北海道帯広市出身。立命館大学卒業後、監査法人トーマツに入所。2011年に公認会計士登録。その後、渡邊勇教公認会計士・税理士事務所(かぜよみ会計事務所)設立。2018年に業務改善や財務コンサルティング、他士業との連携サービスを提供するゼロベースを設立。また、渡邊勇教公認会計士・税理士事務所の代表しても法人・個人の各種確定申告などもおこなっている。