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復活の鍵は「文化観光」、アートと観光で街づくりを目指す-芸術文化観光専門職大学学長 平田オリザ氏

観光やエンターテイメントは人間の生きる楽しみ
業界はポストコロナに向けて連帯を

-観光産業を目指す学生が学ぶべきことは何だとお考えでしょうか。

平田 繰り返しになりますが、一番は教養です。そして1、2年生には協働性ですね。異なる価値観や文化背景を持った人をいかに受け入れていくかが非常に大切です。

 本学では1年生は全寮制としています。観光産業で働くには枕が変わっても眠れることは重要ですし、日本の観光で食の占める割合は大きいので自炊くらいできないと。まずはそういったことも含めた文化的素養を徹底的に身に着けた後、インターン先などで学び、自分はどうしたいかを考えてもらいたいと思っています。

-卒業生が観光産業でどのような活躍をすることをイメージされていますか。

平田 例えばホテルを希望する場合、ホテルの収入の半分は宴会やイベントですから、照明や音響、空間デザインの知識があれば大きな差が付きます。演出のできるホテルマンになってもらいたいですね。旅行会社などで業界自体を盛り上げる仕事に就きたいという人もいると思います。そしてこれが多いことが望ましいですが、但馬に残って起業したり、城崎の旅館に幹部候補生として入って支配人を目指したりという学生が出てきてくれるといいなと思っています。

-文化観光が究極のソフト・パワーであり、平和政策につながるというお考えについてお聞かせください。

平田 観光客がいくら増えても観光だけでは駄目。大切なのは日本を好きになって帰ってもらうことです。世界中に日本を好きな人を増やすことが最大のソフト・パワーであり、安全保障になります。その1番の近道が観光、2番目はアートだと思っています。フランスなどは文化外交の使い方が巧いなと思いますね。

-観光産業に従事する読者に向けたメッセージをお願いいたします。

平田 開学までずっと「なぜ観光とアートなのですか?」と言われ続けてきましたが、図らずもコロナ禍で観光産業とライブエンターテイメント産業の親和性がわかりやすく証明されました。いずれも在庫を持たず、モノではなく時間や空間の権利を買うという点で、産業構造がよく似ています。

 観光産業は非常に大きな産業ですが、ライブエンターテイメントも1兆円産業で、コロナによってこのうちの7000億から8000億が流れてしまったと言われています。そして飲食業なども同様ですが、流れた需要は戻りません。ですがこのことで、豊岡の演劇人と観光産業の方々との間には「一緒に頑張ろう」という強い連帯感が生まれました。

 「人を集めてなんぼ」という商売が最も打撃を食らったわけですが、一方で回復の過程では「やっぱり会いたかったよね」という力が必ず爆発的に働くと思っています。演劇祭に来てくれた方もお芝居で笑顔になり、「半年間本当にこれに飢えていた。温泉に入って美味しいものを食べて、やっぱりこれだよね。」と言ってくれました。

 昨年ベルリンの副市長と対談した際には、コロナに打ち勝っても文化を絶やしてしまったら、せっかく打ち勝った意味がなくなってしまう、という話をしました。観光産業やエンターテイメントは人間の生きる楽しみです。私たちはそこに希望を持ち、観光産業と文化産業で連帯してポストコロナの日本を盛り上げて行ければと思っています。

-ありがとうございました。