バリアフリー旅行をビジネスに-旅行前の対応が鍵

  • 2013年10月8日

予約時の確認徹底へ、障がいの状況や介助者の有無など需要に

講師として登壇したJATAバリアフリー旅行部会長の田中氏 田中氏は、現在JATAバリアフリー旅行部会が作成中のチェックシート「ハートフルシート」を利用したバリアフリー旅行対応について解説した。使用したのは、カウンターや予約センターの担当者が参加者から聞き取って記入する形式の2種類のハートフルシート(「予約相談時編」1、2)と「手配編」の3種。シート2は、聴覚障がい、視覚障がい、糖尿病など症状別に用意されているものだが、今回は最も取り扱いの多い歩行障がいのある車椅子利用の人を想定して進められた。

 シート1で聞くべきことは、歩行の可否、自分で身の回りのことができるかなど障がいの状態、介助者の同行の有無、その他特別な要望などだ。田中氏は、バリアフリールームや福祉車両にもさまざまな種類があり、申込者が旅に慣れていない場合、旅行会社が誘導して要望をしっかり聞き出す必要があると指摘する。

 1を企画旅行会社に送り、参加承諾の回答を得たら、シート2に進み、さらに詳しく聞き込む。企画旅行会社と受託販売会社が同じ場合は1と2は同時進行となる。長い距離が歩けない、階段の乗降ができない、歩行できないといった歩行の程度、一人で座位が保てるかといった細かい情報が必要になるが、これは、航空会社の受け入れ準備などに大きく関わるためだ。

 ここで旅行会社の責任問題に関係した留意点として田中氏が挙げたのが「バスや現地車両への乗降が自身でできるか否か」の確認である。同行者以外の介助が必要な場合、サポートを雇うか、車椅子ごと乗降できる車両をチャーターするかという相談になることを示し、「介助のライセンスを持たない社員が手伝ってケガをさせた場合の責任問題を恐れる旅行会社は多いが、原則として、体に触れての介助は旅行会社の業務範疇ではない。一線を引くことが大事」と注意を促した。


手配時の注意、発生する料金は必ず提示し確認を

 一方、手配担当者のための「手配編」チェックシートは、航空機、宿泊施設、車両、観光、食事などに分かれて設定。その中で、細かく航空会社や宿泊施設、現地手配会社、参加者などへの連絡事項がリストアップされている。

 ここではまず費用発生を確認しながら進めることの重要性が指摘された。田中氏は「バリアフリー対応、ユニバーサルツーリズムは、ボランティアというイメージと結びつきやすいが、旅行会社として、適正に利益を上げるビジネスをすべき」とし、「発生費用は必ずお客様に提示し、確認することが大事。そうでなければ長続きしない」と訴えた。

 田中氏が「旅行会社の矜持として取り組んでほしい」としたのが、現地の状況の把握だ。「ヨーロッパの添乗員付きツアーなどでは、他の参加者とまったく同一の行程は難しい。ただ、どこで待ってもらうかなど具体的かつ丁寧に案内すれば、ほぼ了承は得られる」という。階段の有無や路面状況、途中待機の場所などの情報をどこまで把握し、詳しくアドバイスできるかが旅行会社に問われるとした。

 手配においては現地係員、ガイド、添乗員への事前の周知徹底も重要になる。田中氏は「現地で添乗員が『ここから先に行くのは無理』と伝えるのは心理的に難しい。添乗員が1人の参加者にかかり切りになった印象を他の参加者に与えるのも避けるべき」とし、旅行会社として旅程管理責任、安全確保責任の2つの責任を果たすためにも、事前の周知は徹底すべきと説いた。