日本ナショナルトラスト、旧安田邸を観光資源に−旅行会社の利用を期待

  • 2007年12月13日
 日本ナショナルトラストは今後、東京で唯一の保有資産である「旧安田楠雄邸」を観光資源として活用していく。旧安田邸は「豊島園」の創業者で、普請道楽と言われた藤田好三郎氏が1919年(大正8年)に建築したもの。関東大震災以降は旧安田財閥の創始者の安田善次郎氏の娘婿善四郎氏が買い取って住んでいたが、善次郎氏の死後、1996年に寄付された。近代和風建築の特徴をよくあらわした建物で、震災や戦災、都市開発による取り壊しをのがれて現在も残る例は非常に珍しく、公開日の水曜日には約50名、土曜日には約100名から200名が訪れる名所となっている。旧安田邸のある千駄木と、その周辺の谷中、根津が昨今、下町らしさの残る町並みをコンパクトに散策できるエリアとして「谷根千」と称されて人気があることから、周辺一帯を含めた企画も造成可能だ。

 館内は丁寧な修復作業が施され、大正1ケタの年代に建設されたとは思えないほどしっかりとしたつくり。当時では珍しい板ガラスを惜しげもなく使用しているあたりに、藤田氏の道楽ぶりが窺える。
ガラス戸や洋間のカーテン、2階大広間の畳床、照明など、建設当時のものがそのまま残っており、安田氏らも愛着をもって大切に住まっていたこともわかる。現在のものとはまったく異なる柔らかな踏み心地の畳床や、欄間などの細かな部分に匠の技が垣間見られ、見ごたえは十分。館内のあちこちから、大正時代の豊かな暮らしぶりが感じられる。


 既にクラブツーリズムやはとバスなど、観光ルートに組み込んでいる旅行会社もあるが、日本ナショナルトラストでは単なる観光スポットとしての利用のみならず、部屋や建物を貸し切ってのイベント開催も期待している。12月1日にはメディアを対象にイベント「薩摩琵琶と紅葉狩り」を開催。館内で最も上等な場所といわれる2階の大広間で、琵琶の演奏を聴きながら呈茶をいただくもので、ちょうど数日来の冷え込みで華やかさを増した紅葉が和風建築の趣きを引き立てており、なんともいえない贅沢な気分が感じられた。

 日本ナショナルトラスト理事長の佐々木建成氏はイベント例として、お茶会や管絃などをあげる。これらを含め、一般向けに七夕や、雛人形の展示、邸内の防空壕の公開などのイベントを開催しており、好評を得ているという。今後はインバウンドも視野に入れており、狂言の上演や書道体験など、ニーズに応じて、文化財に負担のない範囲で柔軟に対応していく考えだ。12月1日のイベントには国際観光振興機構(JNTO)関係者も参加し、協力の意思を確認できたという。

 なお、日本ナショナルトラストは、イギリスのザ・ナショナルトラストにならって1968年に設立された団体で、国民的財産である美しい自然景観や貴重な文化財、歴史的環境を保全し、活用しながら後世に継承することを目的としている。市民がボランティアで参加し、保護対象の取得と修復、整備や公開、管理まで担うことが特徴。これまでの保護事業は37件で、観光資源の調査事業は178件。募金や寄贈によって取得した保護資産は、奈良の「旧大乗院庭園」や静岡県の大井川鉄道「トラストトレイン」、白川郷の民家2軒などがある。