ビジネストラベラー:旅行者以上のスキルを求む 些細な気遣いも選択のポイント

今回はベネッセコーポレーションで海外人事を担当されている横山路子氏へのインタビュー。休日には出身地・仙台にある非営利の劇団「シェークスピア・カンパニー」のマネジャーとして活動するなど、公私共に多数の渡航経験を誇る横山氏はさまざまな視点で海外との関わりを持っており、そのお話には参考になる点が多い。
(聞き手:山見インテグレーター代表、山見博康氏)
※2006年11月、月刊トラベルビジョン掲載
◆渡航先で注目するのは「演劇」、舞台のような町に感動!
Q:語学はどのように習得されたのですか
6歳の時、父の仕事で1年間、アメリカのカンザス州に住みました。最初は何にも判らなかったのですが、数ヶ月経ってから急にしゃべり出したようです。完全に身に付いたわけではなかったのですが、ベースができたと思います。高校3年生の時、アメリカのノースダコタ州で交換留学生として1年間生活し、その時にネイティブの感覚が身に付いたようです。
Q:今までどのような国に行きましたか
アメリカ、フランス、イギリス、デンマーク、フィンランド、イタリア、スペイン、韓国、中国、台湾、香港、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイなど、20ヶ国くらいです。
Q:このなかで、好きな町はどこですか?
やはりロンドンですね。私は中学、高校、大学と演劇部に所属したほど演劇が好きなのです。現在は仙台の劇団「シェークスピア・カンパニー」のマネジャーを務めていることもあり、渡航先でも芝居に注目してしまうのですが、ロンドンは最高。行けば何かしら上演されていて、1日2回、はしごして観るのが楽しみです。
Q:印象に残っている町はありますか
いろいろありますが、1つはデンマークのコペンハーゲンです。建物など町全体がアートのように洗練されている上、人々の所作が素晴らしい。ヨーロッパの大都市はおおむね、サービスが遅く今ひとつのところが多いのですが、コペンハーゲンの人たちはきびきびとして、機能的に美しいのです。滞在しているだけで、実に気分がいいですね。
もうひとつの要素が、そこから電車で1時間くらい先にあるヘルシンゴーという町に、「ハムレット」の舞台となったエルシノア城があること。旅行した当時、シェークスピア・カンパニーでハムレットを制作していたため、作品の舞台の空気を吸えたことがうれしかったのです。海に面した要塞で、15分くらいフェリーで行けばすぐスウェーデン。「ハムレット」にはイギリスやノルウェーから軍隊が攻めてくるシーンがあるので、お芝居の世界が目の前にあると思うと感動的でした。
◆プロとしての自覚の少なさに、がっかりすることも…
Q:これだけ海外経験が多いと、ハプニングに遭遇したこともあるのでは
22歳の頃、友人と2人で東南アジアをバックパッカーで旅しました。その頃は好奇心旺盛。クアラルンプールで数人のマレー人と話が合い、家に来てトランプゲームをやらないか、と誘われました。親切だったので安心してついていくと、ゲームの途中で「娘の出産が始まったのでお金がない」などおかしなことを言い始めたのです。変だなと思い、何とか無事に逃げ出して事なきを得ました。それからは危ないところには絶対に近づかないようにしています。
Q:旅行に必ず携帯するものはありますか
必ず持っていくものは常備薬。正露丸などお腹の薬と消化剤、風邪・頭痛薬など一通り持参します。使い慣れた目覚し時計も必須アイテム。海外のホテルでは部屋に時計や目覚ましを置いてないこともあるからです。1週間ほどの出張が多いので、スーツ類は2着程度に抑えます。
Q:旅行中、身を守る上で気をつけていることは何ですか
現地に着く前に機内で空港内のレイアウトを頭に入れるようにしています。空港でキョロキョロしていると、白タクなど危険要素が寄ってきます。それと、パスポートはコピーをとって、それぞれ別々の荷物の奥にしまい、簡単に取り出せないようにしています。また、多額の現金は持ち歩かず、支払いはできるだけカードで済ませます。
Q:よく利用する旅行会社は?
会社から特に指定されていないので、私はよく行き届く「トップツアー」にお世話になることが多いのですが、目的や場所によってインターネットを利用することもあり、ケースバイケースです。今は選択肢が多いので、その都度適切なやり方を選びます。
ただ、旅行会社によってはたまに窓口の人から航空会社の路線のことなどで適切なアドバイスを得られないときがあります。全世界を知るのは不可能ですが、今はインターネットで私たち自身もたくさんの情報にアクセスすることができます。それでも旅行会社に相談するのは、プロの見識で最適な方法を示してほしいからで、中途半端な回答ではもの足りません。また、チケットが送られて来た時に、渡航先の1週間の天気予想などが入っているとうれしいものですね。実際に役に立つし、ちょっとした気遣いが肝心です。
Q:航空会社はどうですか
サービスレベルが高いので日系の会社を優先します。しかし、フライトアテンダントの英語レベルが全体的に低いことについて、ぜひ改善を期待したいです。特に日本への着陸のアナウンスなどは国の第一印象を決めるポイントなのにと、恥ずかしい気持ちになってしまうことがよくあります。心がけ次第では個人的にトレーニングができるのだし、何より会社側の要求水準も問われるのではないかと思います
◆エジンバラ国際フェスティバル公演が大成功
Q:今まで、印象的だった旅行を聞かせてください
1997年に、中学生13人を引率して2週間の語学研修に行きました。13〜15歳くらいの子供たちが、初めて親元を離れてホームステイをするのですから、緊張のためいろんなハプニングが起きました。体調をこわしたり、ホームシックになって泣き出したり…。親御さんたちから大事なお子さんを預かっている立場として責任を感じてしまい、最後に成田空港で解散するまで気の抜けない旅でした。自分のことだけでなく、周囲のこともケアしながら旅行することの大変さを痛感しました。
Q:その経験が劇団の業務にも活かされたとか
2000年に毎年8月にスコットランドで開催される世界的に有名な芸術祭「エジンバラフェスティバル」に参加したときのことです。フェスティバルは毎年、世界から2000ほどの劇団の参加があり、町の学校やパブ、教会など200ヶ所が会場となって開催されるもので、私は劇団のマネジャーとして「恐山のマクベス」という公演をプロデュースしました。日本から大道具や衣装を抱えた30余名の劇団員を率い、人脈のない土地で1週間6回公演という強行軍でしたが、最後には満席でスタンディングオベーションもいただけたのです。好評のうちに終われたのも、中学生を引率した際の経験から、様々なトラブルを想定して対策が打てていたからだと思います。
Q:ご家族ではどのように旅行しますか
今年8月に、夫婦でニューヨークに行きました。私は芝居、主人はサッカーと音楽が好きなので、日中は別行動をして朝食か夕食かどちらかを一緒にするようにすると、実に機能的でお互いに堪能できますよ。次回はロンドンや、フィンランド、スウェーデンなど北欧に行きたいですね。主人はサッカーのチャンピオンズリーグの試合を見に行きたいといっています。
◆雰囲気のある美しい街が好き
Q:今まで行かれた場所で、印象的な街はどこですか??
ひとつは、マラッカですね。とにかくエキゾチック。街全体に幾重の時代背景がしみこんで、どこか懐かしく、自然に自分が溶け込んでいくような不思議な気分を味わいました。
他にもひとつ。私はイタリアの田舎町はみんな好きですが、女性4人で2カ月ほどかけてゆっくり周遊したウンブリア地方の田舎町が良かったですね。
ありがとうございました
横山路子(よこやま みちこ)氏
株式会社ベネッセコーポレーション
人財部 グループ人事企画セクション 海外人事担当課長
1994 年入社 東北支社(仙台)高校講座事業部配属。
2001 年に人財部採用担当、2004 年人財部海外人事担当を経て、
2006 年人財部グループ人事企画セクション海外人事担当課長に就任