スローカメラ

  • 2007年8月6日
 私は、革細工や木工、金工などの工作全般から、音楽観賞、器楽演奏、読書、散歩、あるいはサッカーなどに至るまで、自分でも呆れるほどたくさんの趣味を持っています。そこで今回はそのなかから、「カメラ」についてお話したいと思います。

 カメラと言えば最近はデジタル全盛といったふうですが、私が持っているのはフィルムカメラです。何台か持っていてそれぞれに特徴があるのですが、共通点は「フィルムに撮影すること」と「完全なマニュアルであること」の2点です。そんなカメラを選ぶ理由は、簡単に言ってしまうと私が天の邪鬼だからでして、「人と同じことはしたくない」という面倒な性格が災いしていると言えます。

 一般的なデジタルカメラであれば、撮りたい時にすぐ撮ることができ、さらにその場でデータを確認して、気に入らなければいくらでも撮り直すことが可能です。対して私の古カメラ達は、何かを撮ろうにも露出がどうだ、シャッタースピードはどうだとあれこれいじらなければならず、シャッターを切ったところで本当に撮れているのかは現像してみなければわかりません。本当に不便極まりない。私が天の邪鬼でなければ、きっとこんなことを進んでしたがることはないでしょう。

 ただ、それでもフィルムにはフィルムなりの、マニュアルにはマニュアルなりの良さがあります。私にとっての一番のポイントは、良い写真を撮れた時の嬉しさが違う、ということです。撮り終えたフィルムを現像に出して、受け取る時の期待と不安(大抵は不安が的中しますが)。袋から出した写真をめくっていき、おぉ!っと思える一枚が出てきた時の高揚感。これはデジタルではきっと味わえないものです。

 また、光の具合や被写体の特徴などを考えながら撮りたい写真をイメージし、あれこれカメラをいじくるというのも、考えようによってはまた別の側面があると思います。それはなにかというと、被写体やその場の雰囲気をより大切にするための一種の儀式というような捉え方です。カバンやポケットからパッと出してパッと撮れるのは確かに便利です。しかしその代償に、その場の空気感や雰囲気をゆっくり感じる時間は犠牲になっているのではないでしょうか。

 現在、スローライフ、スローフードといった考え方が一つのスタイルとして根付いてきています。私はその本質を、「人間に相応しい速度で日々を過ごす」という部分ではないかと思っています。すこしくらいの不便はむしろ楽しみ、地に足の着いた生活をする。そうすることで、便利さやスピードに隠れて普段見えないものが見えてくる、そんな気がしています。趣味をお探しの方、「スローカメラ」もおススメですよ。

トラベルビジョン 松本 裕一