ビジネストラベラー:旅行会社は4つの「安」を提供してほしい

  • 2007年7月26日

松下電器産業に入社し、これまで海外での数々の経験を踏まえ、出張についても独自の考えを持つ池崎正明氏へのインタビュー。同社では昭和50年当時に、既に海外トレーニー制度を確立しており、池崎氏はその制度でバンコクに留学した経験もある。海外での豊富な経験を語って頂いた。
(聞き手:山見インテグレーター代表、山見博康氏)



環境配慮をめざす啓蒙活動で中国出張が増加する

Q.これまで訪問した国はどんな国ですか?

池崎正明さん(以下、池崎): タイ、シンガポール、韓国、ミャンマー、ラオス、ベトナム、パキスタン、インド、フィリピン、インドネシア、台湾、中国、豪州、米国、パナマ、メキシコ、イギリス、フランス、イスラエルなど20ヶ国以上でしょう。

Q.1974年に入社され、75年に海外トレーニー制度で留学されておられます。かなり先駆的な制度ですね。

池崎: そうだと思います。弊社では1964年から、将来の国際化に向けて、各国の言語、伝統文化、経済などに精通した人材を育成する目的でこの制度が導入され、これまで延べ400人が派遣されております。私はその11次の派遣です。

 この海外トレーニー制度で、バンコクに2年間留学し、タイ語と文化を学びました。通常は1年留学し、2年目は現地事務所で実習なのですが、労働許可が下りなかったためで私の場合は1年目がラムカムヘン大学経済学部、2年目はタマサート大学経済学部と2年間にわたり、大学で学ぶことになりました。

 また、1994年からバンコクに赴任しました。その時分には、長女が物心ついており、自分の故郷と認識しているのがタイのバンコク。海外旅行へ行く場合、バンコクが常に優先順位のトップに来ます。また、親しくなったご家族が未だバンコクに居られることも訪れたい理由の一つです。

Q.海外出張の頻度は今後増えていきますか?

池崎: 国際化する流れは、即ち現地化を進めることでもあります。現職務である広報の場合にも世界4拠点、つまりロンドン、ニュージャージー、北京、シンガポールのニュースセンターがそれぞれの地域を責任もって広報活動を行うことになっています。従って特に多くなるわけではありません。

 担当地域での展示会、広報関連の会議などで、中国・アジア・中近東へ出張する機会があります。

Q.企業として旅行会社に求めるサービスの順位はいかがでしょうか?

池崎: それは「四つの安」、つまり、安全・安心・安楽、それから安価の順でしょう。英語でいえば、「safe」、「reliable」、「comfortable」、「reasonable cost 」などのキーワードが当てはまります。

Q.旅行会社が手配する際に配慮して欲しいことはありますか?

池崎: ホテルを選択する場合、インターネット環境が整備されているか否かが重要な要素となってきます。先ほどの「四つの安」に加え高速データー通信が可能というのは極めてインパクトのあるアピーリングポイントであると考えます。


各地で起こるテロで思い出す徹底した危機管理の対応

Q.何かハプニングな出来事や思い出はありますか?

池崎: 1985年にイスラエルに出張した際、朝7時30分にテルアビブを発つパリ行きの便に乗るためにホテルを深夜3時頃出発しました。なぜかというと、4時間以上前に空港に着く必要があるからです。そしてチェックイン前に、荷物は厳しくチェックされ、徹底的に尋問されました。仕事の内容から、「誰とアポイントがあり、実際に会ったのか?」、「どんなことを話したかの議事録は?」とか、「ホテルから空港までに誰かに頼まれ物は無かったか?」等々です。

 質問に答え終わると別の係官が来て同じ質問をします。チェックインまでに約2時間かかりました。答えが違っていないか回答の一貫性をチェックしているのでしょう。

 それは乗客の安全のためにも必要なこととわかり納得したのですが、ドゴール空港でもまた同じ質問をされたのには驚きました。また国防と国民の安全に対する徹底した危機管理には感銘さえ受けたのです。最近各地でテロが起きるたびに、そのことを思い出します。

Q.失敗した体験はありますか?また、安全に関する秘訣があれば、お教えください

池崎: いつも用心しているせいか特にありませんね。とにかく危険そうなところには近づかないに限ります。用心する点としては、特に夜は絶対に歩かないことです。夕食でレストランからタクシーで帰るときでもホテルの真ん前で下車します。近くまで来て、すぐそこだから散歩がてらにちょっと歩こうかなどと気を許すと危ないのです。他には、生水を飲まないこと。生ものに注意し、火を通したものを食べる。時に生野菜も食べないこと。さらに、見知らぬ人間に心を許さない。特に日本語で話しかけてきたら要注意です。、現金は分け、パスポートは必ずボタンのある内ポケットに入れます。また、決済はほとんどカードですが、できるだけ1枚にし、余計なカードに日本に置いてきます。


印象的なインド・コーチンでの風景

Q.旅なれておられますが旅行準備で気をつけていることはありますか?

池崎: 最近は1週間以内なので余り多くはありません。いつも持参するものは、パソコンは当然としても、電気髭剃り・歯ブラシ(特に腰のある日本製)・めがねのスペアなどです。背広とブレザーを1着ずつ、替えズボンは背広のスペアズボンを代用。ネクタイは2本から3本。ワイシャツと下着は日数分です。

Q.好きな国あるいは印象的な国はどこですか?

池崎: 留学したタイが最も印象的ですが、他にはインドでしょう。まだ観光地として未開発な所が多いが、ゴアからチェンナイに至るまでの海岸線沿いは将来非常に魅力的な観光地になる可能性があります。

Q.世界の各地に旅されてもっとも印象に残っている町はどこでしょうか?

池崎: それぞれに思い出がありますが、1つ挙げるとすれば、インド亜大陸の南西部に位置するケララ州のトリバンドラムです。

 ケララ州最大の祭りである「オナム」の前に同州主要都市の販売店を訪問するため、トリバンドラムに滞在しました。販売店大会を開催し、無事終えた翌朝、宿泊したコーラルビーチホテルで朝食をとっていた時のことです。そのホテルはアラビア海に面した岬に建っており、朝食は岬の先にあるレストランでひとりで食べていました。

 一方を眺めれば、椰子の林が地平線の彼方まで果てしなく続き、それに沿って青々とした大海原が水平線の彼方まで広がっている壮大なる空間。そこに何とも言えない心地よいそよ風が頬をかすめていくのです。その風のさわやかさと気分の爽快さが景色の雄大さや悠久さとあいまって、極上の幸せを味わいました。まさにマハラジャになった気分になりました。生活も厳しく仕事も難しい中で、この至福の時を独り占めにして最高の気分でした。

Q.推奨できる穴場を一つあげるとすればどこがありますか?

池崎: 同じケララ州のコーチンですね。ここは、大航海時代から胡椒の輸出基地として有名で同時にいろんな文化が栄えたのです。とくにシナゴーグ(ユダヤ教の教会)は見ごたえがあります。食べ物ではチキンシチューと呼ばれるココナツミルクベースのチキンスープがタイのトムカーカイというスープと同じで絶品です。

 バックウォータと呼ばれる河川が海に向って流れて込んでおり、そのクルージングも面白いと思います。アユルベーダーマッサージなども含め、インドへ旅行される方には是非お薦めしたい土地です。


池崎 正明氏
松下電気産業・コーポレートコミュニケーション本部 
国際グループ 中国・アジア・中近東・CISチームリーダー

1974年 入社 海外事業本部
1975年 海外トレーニー制度によりバンコックに2年留学、タイ語を学ぶ
1977年 帰国し、エアコン事業部海外部で自動車用カークーラーの輸出を担当、
草津工場赴任。マツダ・フォードとの合弁事業にも従事。
1994年 AV機器やOA機器の販売会社シューナショナル社の営業本部長として
バンコク赴任
2000年 アジア太平洋本部家電営業部長
2001年 インドパナソニック社長としてニューデリー駐在
2004年 帰国して現職