法律豆知識(117)、日本のADRの現状:簡易裁判所から消費者センター

  • 2007年2月24日
前回は、日本の裁判制度について説明した。今回は、ADRについて説明しよう。ADRは、「Alternative Dispute Resolution」の略で、「裁判外紛争解決手続」のことである。裁判は一般には時間と手間がかかるので、どの国でも、仲裁、調停、斡旋などによるADRの充実がはかられている。


<簡裁の調停>

 日本では、古くから簡易裁判所に調停というADRの制度があり、長い間人々に親しまれてきた。簡裁の調停は、長い実績もあり、ADRとしてはかなりのレベルのものと評価でき、旅行関係のケースも当然扱ってもらえる。

 ただ、簡裁の調停の問題点は、調停員が専門化していないことである。旅行関係のような特殊な事件となると、調停員にとっては、馴染みのない法令を扱わなければならないため、スムースにいかない恐れがある。そこで、旅行関係のケ−スを申し立てるには、事前に旅行関係の法令を整理しておいた方が良いだろう。とは言え、旅行関係の紛争についても、簡裁の調停は効果的である。


<仲裁の利用>

 仲裁制度も、利用出来る。国際取引には国際商事仲裁制度があるし、一般事件については、弁護士会で運用する仲裁制度もある。仲裁は、裁判と同じように、仲裁員が判断をしてくれる。調停は、あくまでも話し合いのため、当事者で合意点に達しなければ、成立しない。合意に達する見込みがなければ、調停不調ということになってしまう。その点、仲裁は、仲裁員が判断してくれるので、その判断に基づく解決を図れるので効果的である。

 しかし、仲裁を利用するには、当事者の合意で、仲裁で解決しようとの合意の成立することが必要である。一方が、仲裁の利用を拒否すれば、利用できないのである。また、仲裁員が旅行関係に馴染みがないという問題点があることは、調停と同じである。

 従って、旅行関係には、仲裁はほとんど利用されていないのが現状であるが、本来効果的な制度なので、今後は、その利用が検討されてもいいであろう。


<その他のADR>

 旅行関係に特化したADRとしては、日本旅行業協会(JATA)の消費者相談室がある。相談・斡旋・調停を行っており、ADRの役割を果たしている。この相談室の実績は十分に評価出来るし、公平な運用がなされている。しかし、業者団体の一機関ということから、一般旅行者にとっては、どうしても業者側に有利な運用がされてしまうのではないかと不安がつきまとうことも事実である。将来的には、旅行関係の独立したADRがほしいものである。

 ホテル・旅館と旅行者・旅行業者との間のトラブル、航空会社と旅客・旅行業者との間のトラブルとなると、その解決のための専門のADRは無いに等しい。この分野でも紛争が決して少なくないことからすれば、これらの分野においても、是非とも専門のADRがほしいところである。


<消費者センター>

 旅行契約、ホテル旅館契約、航空運送契約は、いずれも消費者契約法が適用される。したがって、旅行者や旅客個人が、各地の消費者センターの相談窓口に赴き、苦情を申し立てると言うことも多い。

 この相談窓口も、一種のADRといえる。消費者センターには、旅行関係に詳しいスタッフがいて、合理的な解決を指導してくれることも多い。旅行者から苦情を申し立てられたら、まずは誠実に対応して、そこで合理的な解決を図れるよう努力すべきであろう。


<ADR法の施行>

 「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法令(ADR法)」が、平成19年4月1日から施行される。

 これによれば、同法による一定の要件を備えたADRに対し、法務大臣が認証することができ、その「認証紛争解決事業者」は、報酬を得て和解・仲介ができ、また、和解・仲介の手続の申請に時効中断の効力が与えられる。

 これにより日本のADRの制度は、さらに充実したものになるはずである。旅行関係においても、ホテルや航空運送を網羅した総合的で独立したADR制度ができることを期待したい。