法律豆知識(91) 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜その4

  • 2006年6月10日
<LLP、LLCの活用で、旅行産業に新たな可能性>

 LLPとかLLCという言葉を聞いたことがあると思う。LLCは新会社法で導入された「合同会社」という新しい法人組織で、LLPというのは新会社法に先行し、昨年の2005年8月1日からスタートした「有限責任事業組合」のことである。

 LLPやLLCは新しい法人形態で登記もできる。ベンチャー企業の育成や、さらには産業全体の活性化を狙ったもので、旅行産業でも活用が期待されるものである。株式会社で出資といえば資金を出すことが中心で、そうでなければ不動産や特許権のような金銭評価が容易なものを現物出資するしか方法はない。

 しかし、LLPやLLCではある人が持っている能力や経験、技術といった、人的資源を出資できる。まさに、物的資源だけに限らず「人的資源」を競争力の源泉とすることが可能となるのである。

 それでは、旅行産業ではどのような活用の方法が考えられるであろうか。
旅行業に関しては、優れた経験や知識、アイデア、技術のある者と出資者を集め、LLPやLLCという法人を構成することが考えられる。
 例えば、秘境探検家の知識、経験、ノウハウを人的資源とし、旅行業者の資金という物的資源を結集して、秘境ツアーに特化したLLPやLLCが考えられる。歴史学者や画家、音楽家の人的資源を使った、ユニークなツアーも考えられる。
 大きなイベントを中核とするツアーを何社かが集まってLLP、LLCを構成し、ノウハウと資本を結集して新事業を展開するのもいいであろう。例えば、ヨーロッパのサッカーにコネがある人を人的資源にサッカー観戦ツアーを展開すれば、魅力のあるツアーを開発できるであろう。

 さらには、旅行関連産業でベンチャー企業を立ち上げるのも面白いし、その際、異業種と提携してもいいビジネスができるであろう。旅行ソフトやウェブサイトの開発、ピーアール映像の制作、美容、健康、食品などの買い付け配送、旅行コンサルタント業、留学や研修事業など、旅行業の周辺には様々な事業チャンスがある。これらの成否は人的資源をいかに活用するかであり、その方法としてLLPやLLCは極めて効果的である。


<LLPやLLCの特徴>

 LLPやLLCは所有と経営の一体化が特徴である。出資者がそれぞれ経営に口を出すことが原則である。株式会社は所有、即ち株主と経営は分離が前提で、株主は株主総会で意思表示をする。両者はこのように大きく異なる。
 また、内部自治の原則が取られ、組織を自由にできることに特徴がある。取締役会や監査役をおかなくてもいい。利益や権利の配分も、出資比率とは異なる形にできる。

 しかし、有限責任なので出資者は事業に失敗しても、出資金が帰ってこないだけで個人責任を負うことはない。法人で登記も可能なので、旅行業のライセンスは自らの名前で取得できる。
 また、かなりの先行投資が必要でリスクが大きかったり、仮に失敗すれば大変なことになるような事業でも、失敗時にはその法人だけを清算すればよい。従って、本体へのダメージを最小限にできるし、数社集まって出資していれば、リスクを分散できる。

 逆に成功すれば株式会社にして、さらに大きく事業展開ができる。LLPやLLCは今後旅行業界でも、多いに活用されて欲しいものである。


<LLPとLLCのどっちが有利か>

 LLPには、パススルー課税という特典がある。LLPという法人には課税されず、組合員が配当を受けるときに個人として課税されるのみで、節税には極めて効果的だ。LLCにはそのようなメリットはなく、株式会社と同じく法人税が課せられる。個人と法人の2回課税されるのである。
 しかし、株式会社に発展させるには、LLCは会社なので組織変更ですむ。LLPは組合なので、いったんLLPを解散しなければならない。どちらが効果的かは事業の内容も含め、よく検討されるべきであろう。



   =====< 法律豆知識 バックナンバー>=====

第90回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その3

第89回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その2

第88回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜1

第87回 航空会社のストと困った客〜約款・消費者保護と事後対応

第86回 グループ・ブッキングについて〜国際旅行法学会の準備原稿

第85回 景品表示法と広告〜第2回 「おとり広告」とは?

第84回 景品表示法と広告〜第1回 日本航空の広告から


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執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
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