法律豆知識(89)、旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜その2

  • 2006年5月20日
今や「インターネットの時代」と感じる場面は多い。新会社法でも、取締役会と株主総会でインターネットを活用できるよう、新な仕組みが導入されている。


<取締役会では>
 旧法下でも、テレビ会議方式による取締役会は可能と解されており、活用されている。しかし、取締役会は顔を合わせてディスカッションできないと、十分審議できない。
 その点、テレビ会議方式は有効としても、顔を合わさない電話会議方式が許されるかについては疑問もあった。多数説は「違法とは言えない」と解していたため、電話会議方式の利用も多かった。ただ、持ち回り決議やインターネットによる決議は、ディスカッションができないため違法と解されていた。

 しかし、中小企業の場合、取締役会という会議体を持つこと自体が現実的に合わず、代表権のある取締役が、その全面的な責任のもと、即決するということが適している会社も多い。こうした実態を敢えて、取締役会を設置させても全く機能せず、何年も開催されること無く、役員登記が必要なときには、議事録だけを作成するという中小企業も多い。このような会社では、取締役会が全くの形骸だったのである。

 新会社法では、取締役会を設置しない株式会社も認められるようになった(従来の有限会社では、このようなタイプが原則であった)。これとあわせ、中間型として、一応取締役会を設置するが、ディスカッションまでは要求せず、持ち回り決議や、インターネットでの決議が可能なタイプの会社も認められることとなったのである。

 ただし、こうした体制をとるには、定款にその旨の記載が必要である。従来の会社において、持ち回り決議やインターネットでの決議を可能とするには、定款の変更が必要である。


<株主総会では>

 株主総会の開催は、招集通知を2週間前まで発送する。新会社法では、非公開会社については、1週間前までに発送すれば良いことになった。取締役会非設置会社では、定款でさらに短縮できる。

 さて、この招集通知であるが、新会社法では、平成13年の旧法の改正を承継し、同意を得た株主には、電子メールにより、招集通知及び添付書類を送れる。ただし、あくまでも、個別の同意を得る必要がある。電子メールでは不都合という人もいるため、定款で全員に対し、全て電子メールで送付するというわけにはいかない。

 注意すべきは、電子メールで招集通知を送ると、会社としては、当該株主による電子メールでの投票を拒否できないことである。ただ、電子投票は、総会前日の営業時間終了時までに会社に到達していなければならないことになっている。

 新会社法では、さらに大事な改正がある。株主全員の承諾があると、書面決議や、メール決議のみで、株主総会決議があったことにすることが出来る。つまり、総会開催自体を省略できることになったのである。

 従来、株主数の少ない会社では、わざわざ株主を集めて総会を開催するのも面倒なので、書面決議で総会があったことにすることも多かった。中小企業では、特にそうした事例が常態化している、といっても過言ではない。旧法では、こうした事例が有効かどうか明確ではなく、新法においては現実に即し、株主全員の承諾のある場合に限り、書面決議を合法化した。

 同時に、時代に合わせ、総会を開催せずに、メール決議によることも有効とした。したがって、今後は、メール決議による総会も増えるはずである。このメール決議の場合、実際には、会社の設置したウェブサイト上で行う、という方法が活用されるだろう。



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第88回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜1

第87回 航空会社のストと困った客〜約款・消費者保護と事後対応

第86回 グループ・ブッキングについて〜国際旅行法学会の準備原稿

第85回 景品表示法と広告〜第2回 「おとり広告」とは?

第84回 景品表示法と広告〜第1回 日本航空の広告から

第83回 上空からの鑑賞ツアー、悪天候での催行中止の責任は?

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第81回 最近の相談事例から〜準備のための視察旅行は誰の負担か


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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
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