法律豆知識(83)、上空からの鑑賞ツアー、悪天候での催行中止の責任は?

  • 2006年3月25日


「ヘリコプターで、遺跡を上空から鑑賞」や、「気球に乗って、夕日のなかで遺跡鑑賞」といった、上空から鑑賞するツアーを見かける。ひと味違ったセールスポイントを売り物にしており、結構人気は高いようだ。セスナのような小型飛行機で、大自然の豪快さを上空から味わうという趣向のものも昔からある。


 天候の悪化による欠航

 この手のツアーは、観光の醍醐味を提供してくれるものであるが、現実に旅行者と深刻なトラブルになることも多いので注意して欲しいもののひとつだ。トラブルは悪天候が要因となり、ヘリコプターが飛ばない、気球を出せない、セスナが飛べない、といった場合だ。
 旅行者は、空からの鑑賞を期待して参加している。欠航では、旅行に来た意味がない、という気持ちになってもおかしくはない。その結果、旅行者が「旅行代金の半分を返せ」等という例も結構あるようだ。
 他方、旅行業者から見れば、「天候が悪いからやむをえないではないか」「天気には誰も責任を持てない」ということになり、「返せるのは、飛ばないことの実費だけだ」と主張して、両者の見解が真っ向から食い違う事になり、やっかいな争いになる。


 商品設計と旅程管理

 天候による「運送機関等の旅行サービス提供の中止」は確かに、約款上は免責となるのが原則だ(18条)。天候は、人間がコントロールできないのだから、やむをえないではないかというわけである。
 しかし、実例を見ると、飛行日を最終日に入れていたり、予備日をもうけていないという例も目立つ。一旦、天候が崩れたら、挽回しようのないパターンである。現地の天候が悪い季節で2日に一回は欠航するという状況なのに、予備日もない旅程を組むというひどい例もある。
 このようなケースは、基本的な旅行という商品設計自体に重大な問題があるといわざるを得ない。気候は気まぐれである。雨の降らない砂漠地帯の旅行でもない限り、目玉のツアーに予備日をもうけないというのは、あまりにも危険である。
 また、ハリケーンや台風の接近が予報されて欠航の可能性が高いのに、旅行者に一切、情報を提供していないというケースもある。これは、旅程管理の問題である。


 課題の解決に向けた対策

 対策として、初めに事前の天候調査が重要である。その時期、季節で現地の天候を綿密に調査し、さらに過去の運行状況を調査して、欠航の確率を割り出しておく必要がある。その結果を踏まえ、旅程を組むことである。その際、予備日を設ける、あるいは旅程の変更が出来る工夫が必要なことは当然である。
 また、天候調査等の結果を旅行者に事前開示しておくべきである。現代社会では不利益なものを曖昧にして、客を釣ろうということは、最も避けるべき営業態度である。消費者から見れば、むしろ、情報開示が詳細で的確なところのほうが、より多くの信用力を得て、より多くの顧客を獲得できるという時代のはずである。旅行者は、欠航の確率を認識した上で、「自己責任」でツアーを申し込むことになる。
 また、商品設計の段階だけでなく、旅程管理として、現地の最新の天候情報を手に入れておく必要がある。出発前に、台風やハリケーンの接近で欠航の可能性が出てきた場合には、速やかに旅行者に連絡すべき。また、旅程の変更等の努力で、欠航を出来るだけ回避する努力も必要である。これらの努力を十分にした上で、それでも欠航して上空からの鑑賞が出来なかったとなれば、商品設計自体に欠陥がない限り、それはもはや旅行業者の責任でないことは当然である。


 最後に

 商品設計に問題がある場合、天候の悪化し欠航の可能性が出てきたのにそれを旅行者に告げず契約解除の機会を奪った場合、あるいは、天候の悪化に対して臨機応変の対応が出来ず、上空からの鑑賞の機会を持たせられなかった場合には、旅行業者は慰謝料の賠償義務を負う場合ことになる。責任が重いときには、確かに、旅行料金の半分に相当する額を賠償せよということもあり得るだろう。



   =====<法律豆知識 バックナンバー>=====

第82回 添乗員が旅先で病気に、その対策と対処

第81回 最近の相談事例から〜準備のための視察旅行は誰の負担か

第80回 広告やパンフレットで掲載する食事の写真

第79回 添乗員無しのツアーの落とし穴〜緊急連絡先

第78回 「ハンパな処理」がトラブルを呼ぶ〜応用事例

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編集部: editor@travel-vision-jp.com

執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
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