最近の相談事例から:「シャワーのみ」というトラブル〜法律豆知識(73)

  • 2005年12月17日
 最近の相談事例であるが、「ベトナムのパックツアーで、バスタブが無くシャワーだけだったとして、帰国後あんなひどい旅はない。慰謝料をよこせ」と、食い下がるお客がいて困るというものがあった。今日はこの件から、ガイドラインを踏まえ、表現上の問題も含めて考えてみよう。

▽バスタブの有無でトラブル
 相談を受けたのは、ベトナムツアーでのこと。ある地方都市に一泊したが、その時一回だけ、バスタブが無かった。ところが、その旅行者だけは、「バスタブが無ければ、疲れが癒されないではないか」と怒りだし、添乗員がなだめても収まらなかったとのこと。
 相談に来た担当者は、出発前、ベトナムの地方都市では宿泊設備が貧弱なことは良く説明しておいたという。ただし、事前に確認が出来ず、バスタブの有無までは「伝えていなかった」とのことだ。
 広告や契約書面を点検したが、「バス付き」との記載はなかったが、「シャワーのみ」との記載もなかった。
 日本人にとっては、旅先で湯船に浸かれるか否か、を重要視する人は多い。年輩の人にとっては、シャワーだけで済ますということを、生まれてから一度もしたことがないという人も結構いる。若者なら、朝シャンだけで十分という者も多いだろうが、年輩者の中には、バスタブがないということは我慢できないという人も多いようだ。旅行会社も、たかがバスタブと軽視するのは危険である。
 日本旅行業協会(JATA)の旅行広告作成ガイドラインでも、バスタブが無く、シャワーだけの時は、その旨表示することを求めているし、何も記載がないときには、「バス・シャワー・トイレ付き」と認識されるので、注意が必要と明記されている。もちろん、取引条件説明書面、契約書面にも同じ注意が必要である。
 旅行契約約款別表第二の上段6号には、「宿泊機関の客室の設備」が明示されている。バスタブは客室の設備であるから、「シャワーのみ」と明示しておかないと、必要な設備がなかったとして旅行者から旅行契約が取消されることもあり得るし、本件のように旅行途中で取消しとはいかない場合であれば、後に損害賠償の問題になってしまう。この場合の損害は、シャワーがある部屋との料金の差額と、慰謝料が考えられる。
 いずれにしても、バスタブがなくても平気という文化圏はベトナムに限らない。発展途上国だけでなく、ヨーロッパにも多いので注意が必要だ。

▽「オーシャンビュー」、「オーシャンフロント」
 別表第二の上段6号には、「客室の景観」もあげられている。景観として典型的なのは、「オーシャンビュー」や、「オーシャンフロント」である。これに関するトラブルは昔からあるが, 一向に無くならないので困ったものだ。
 JATAのガイドラインでは、「オーシャンビュー」は、「対象物である海が客室から視野のかなりの部分を占め、その景観を特色付けている場合をいう」と定義されている。建物の間から、少しだけでも見えていればビューではないかといっても通用しない。お客は、オーシャンビューといえば、目の前に、広く海が見えることを期待しているものであり、それ故このような定義となるのである。
 「オーシャンフロント」となると、もっと大変である。「海辺に位置し、正面に海を眺めることが出来ること」と定義されている。
 この場合、注意すべきは、「海辺に位置し」という部分である。以前相談を受けたケースでは、山の上のホテルで、そこからは小村の家並みの向こうに、海が左右に大きく広がっているというケースがあった。旅行業者は、海辺にあるよりも海が広く見渡せるので、景観としてはこっちの方が上質で問題ないはずだと反論していた。が、「フロント」という以上、海が目の前でなければならず、「海辺に位置し」という条件は必定なのである。言葉の定義は、ルールでもあるので、厳重に注意して欲しい。