キャンペーン好調の英国、地方分散やAI活用で見出した方向性とは

  • 2025年12月23日

 2030年に訪英旅行者数5000万人を目標とし日本市場でも意欲的な目標を掲げる英国政府観光庁(VB)。足元では映画やドラマのファンを英国に呼び込む「Starring GREAT Britain(SGB)」が好調だが、旅行観光産業を取り巻く環境はオーバーツーリズム問題や生成AIの登場などで大きく変化しようとしている。VBとしてどのように未来を見据え、そして日本市場ではどのように活動していくのか。VBのCEOを務めるパトリシア・イェーツ氏と、新たに日本を含む北東アジア市場を統括する立場となった国際担当副長官のポール・ガウガー氏に話を聞いた。

©Visit Britain

英国が向き合う課題とキャンペーンの成功

 英国を訪れる旅行者の総数は2024年が4260万人でコロナ前の2019年に1%減まで迫ったところだが、2030年にはこれをさらに5000万人へと引き上げる目標だ。2009年から2019年までの10年間における純増数が約979万人であったことを見ても野心的な目標と言えそうだが、2030年に向けた課題はなにか。その問いに対してイェーツ氏が根源的な問題として挙げたのは「歴史と遺産」、「ロンドン」のふたつだ。いずれも英国にとって非常に強力な武器ではあるが、前者は「10年前も10年後もある」ためにすぐに行く理由付けになりにくく、後者は地方分散を妨げるという「諸刃の剣」でもある。

 そしてこれに対してVBが2025年初めに立ち上げたのが、英国を舞台とした映画やドラマなどによって需要を喚起しようとするSGBだ。イェーツ氏はこれについて「今行きたいと思わせる方法として現代的なひねりを考えた」と説明。単純なロケ地の紹介だけではなく、各々の物語の中に入り込める体験を打ち出して訪問を呼びかけている。

 そしてSGBは開始半年で2.17億ポンドの消費増をもたらし、つまり投下1ポンドあたりインバウンド消費が20ポンド増えて「これまでのキャンペーンで最も成功したもの」となっているところ。ハリー・ポッターの聖地アニック城での「空飛ぶほうき体験」など地方のアクティビティを取り上げることで地方分散にも効果を発揮しており、「今後2、3年をかけてさらに発展させていく」考えだ。

 地方分散についてはガウガー氏も、「英国は小さい国。数時間の電車移動でマンチェスター、リバプール、ヨークなどの地方に到着し、都市にいるのとはまったく違う体験が得られる」とし、地方分散を進めるアイディアとして「具体的な時間を示して移動しやすさを示すのが大事」と語った。例えばマンチェスターやリバプール、ヨークはいずれもロンドンから2、3時間程度の電車移動で到着可能だ。またガウガー氏は、アクティビティなど地方での過ごし方についてもメディアやインフルエンサーなどを通して魅力を発信し、旅行業界に対しても販売の働きかけを続けていく考えを示した。