キャンペーン好調の英国、地方分散やAI活用で見出した方向性とは

  • 2025年12月23日

オーバーツーリズム対策としての再生型観光

 インバウンドの拡大をめざすうえで避けられないのがオーバーツーリズムの議論。イェーツ氏によると英国は「まだそのような段階ではない」ものの、VBとしては先を見据え「再生型観光(リジェネラティブツーリズム)」を推し進めている。

 再生型観光についてイェーツ氏は、「持続可能性(サステナビリティ)が“害を与えない”ことだとすると再生型は“良いことをする”という考え方」「観光は経済成長をもたらすだけでなく地元愛など社会的な善をもたらすもの、という新しいナラティブで作り直しているところ」とし、地域のコミュニティや住民、経済にとって「良い」観光振興に取り組んでいることを説明。そして一例として混雑の少ない新しい旅行先やオフピークの魅力発信を挙げ、旅行業界に対しても「よりゆったりとした体験ができ費用も安くなることが多い」点で協力を呼びかけた。

AI活用の現在地、必要なのは「好奇心」

2年ぶりの中国開催となった北東アジア向け商談会

 もうひとつ、世の中を大きく変える勢いの生成型AIも今後の観光振興を考える上で避けて通れない要素だ。イェーツ氏は昨年の取材で活用方法を模索しはじめていると話していたが、今回は「データ分析」「業務効率化」さらに「ユーザー向け新機能」の3分野で活用を進めているとの回答。

 データ分析では、「数年前はデータアナリストが解析する前提で構築していたものが、今は生成系AIを使って自然言語で質問するだけで答えを得られる」ようになったことで「データに基づく将来戦略を一般スタッフが直接活用できるようになってきた」ことが大きな変化との考えで、また業務効率化でもキャンペーンなどの効果検証を高速化できるため「効果が出ていないチャネルは切り替える、あるいはキャンペーンの見せ方を変えるなど素早い対応が可能になった」という。最近の新たな試みでは、位置情報とビルボード広告を組み合わせ、スマホをかざすとその場所に関する物語が表示される仕掛けを導入し、消費者に楽しんでもらいエンゲージメントを深めてもらう取り組みを実施している。

 そして消費者向けでは、VBが保有する豊富なデータやコンテンツをもとに個々人に最適化した旅程を作成する機能を構築しているところ。また生成AIの浸透による消費者行動の変化についての質問では、「現在は多くの観光局がウェブサイトに投資しているが、現在の子ども世代が観光局のウェブサイトを直接見に行くかというと疑問」と回答し、限られた予算のなかでいわゆる「AIO(AI最適化)」などへの投資も選択肢のひとつとして見極めようとしているという。

 なお、イェーツ氏は生成AIの話題に関連して「今日の世界で私たち全員に必要なのは“好奇心”だと思う。とにかく好奇心を持ってこの技術を試し何ができるかを探ってみる必要がある」とコメント。そして「同様に旅行先として英国が提供できるものや、オフシーズンに旅行することがどれだけ違う体験になるかも、是非好奇心を持って見てほしい。旅行者はそうした好奇心を持っているはずで、我々自身もそのマインドセットを持つ必要がある」と語った。