TIFS会員インタビューVol.18 軍事遺構から古墳・アナゴ刺身まで マニア心を満たす旅、対馬で深める知の体験ービーコンつしま佐藤雄二氏

佐藤 移住当初の3年間は地域おこし協力隊として対馬市役所に所属し、現場体験や住民との交流を通じて地域理解を深めました。加えて農家と協力してどぶろく製造の支援を行ったり、地域資源の活用を模索するなど、さまざまな取り組みに関わってきました。その後は副業的に新聞社のエリアリポーターを務め、取材や発信を通じて地域とのつながりを広げてきました。
近年では文化財の活用にも力を入れています。例えば金田城の登山道でボランティア清掃を企画し、市民や研究者などを巻き込んだ活動を実施しました。専門家だけでなく一般の人にも文化財保全に関われる仕組みをつくりたいと考えており、今後は例えば清掃などの保全活動に専門家の解説や裏話を組み合わせた「参加型ツアー」などの展開も視野に入れています。
佐藤 今後については、まずは教育旅行や研修旅行をもっと積極的に誘致していきたいと思っています。対馬の歴史や自然環境は学びに直結する題材が多く、スタディツアーの形で来ていただければ島にとっても価値ある交流になるはずです。文化財についても、保全活動や解説付きツアーのように「参加型」の取り組みを広げていきたいと考えています。
アクセスについては、福岡からなら飛行機で30分ほどと移動時間は短いのですが、航空運賃はどうしても高めになります。マニアの方は「好きなもののためにはお金を惜しまない」という側面もありますが、それでもハードルに感じる人がいるのも事実です。ただし近年は、対馬でしか得られない学びや体験の価値が徐々に顕在化してきています。今後、専門家やマニアたちが集う場となることで、価格に見合う付加価値はさらに高まっていくはずだと考えています。
宿泊については、「農林漁業体験民宿」やゲストハウス、宿坊(寺泊)など、バリエーションが広がっています。まだ十分に知られていませんが、活用の仕方次第では教育旅行や研修旅行のニーズに応えられると考えています。
中長期的には、地域の方と外から来る方が一緒に学び合える場をつくりたいです。観光と地域生活がどちらか一方に偏るのではなく、補い合う関係を築くこと。その延長線上に、対馬ならではの持続可能な観光の姿があるのだと思います。
佐藤 観光業界に携わる皆さまには、ぜひ対馬を「国境の島」としてだけでなく、日本と世界をつなぐ場所として捉えていただきたいと思います。離島を訪れることは、日本の多様性や国際的なつながりを肌で感じる貴重な体験になります。対馬に来ていただければ、歴史・自然・食といった表層的な観光資源だけでなく、学びや知的探求につながるテーマが数多く存在することを実感していただけるはずです。
島の資源は一見するとニッチでマニアックに映るかもしれません。しかし、それらを深掘りすることで得られる体験は、価格以上の価値を生み出し、訪れる人の知識や視野を広げてくれるものだと考えています。これから対馬が、専門家やマニアが集い交流する知の拠点となることを願っています。
※TIFS運営からのお願い:会員の限りある時間と苦労を重ねて培ってきた知見を尊重し、情報収集目的のみのお問い合わせはお控えください。