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【新春インタビュー】ウィズコロナに向けて前へ進むのみ-日本政府観光局理事長 清野智氏

2023年はサステナブル、アドベンチャー、ラグジュアリーがキーワード

-先ほど航空業界や空港での人手不足の話もありましたが、観光業界全体を見渡しても人材不足は深刻です。

清野 少子高齢化が進み、生産年齢人口が減少傾向にある日本では、人材不足は日本社会全体、日本経済全体の課題です。大きな視点で言えば、日本を国として存続させ発展させていくための政策を国レベルで考えていかねば解決しない問題です。外国人労働者を増やしていけば解決するというような簡単な話でもありません。

 短期的な視点で言えば、AIなどのIT技術を活用していく必要があります。たとえば電子決済を普及させて人間が関わる負担を軽減するといった方法です。また仕組みそのものも再考の必要があるかもしれません。たとえば旅館という形態です。現在はそれぞれの旅館が調理場と調理人を抱え、あまり代わり映えしない料理を宿泊客に提供している、というのは言い過ぎでしょうか?調理設備や調理人を共有して合理的な食事の提供体制を整える。その代わりに、和食だけでなくフレンチやイタリアン、中華料理、ハラル・ヴィーガン対応などに幅広く対応できる体制にして、宿泊客の多様なニーズにも対応できるようにする。そんなアイデアも人手不足解消のためにも検討の余地があると思います。

-観光産業に人材が戻らない理由の1つに給料の低さ、待遇の悪さがあると思います。待遇改善のアイデアとしてチップ制の導入というのはどうでしょうか。

清野 チップ制を日本で定着させるには課題も多いと思いますが、いずれにしてもサービスには対価が必要という、当たり前の考え方をもっと浸透させる必要はあります。人間が人間に対してサービスを提供するのですから、サービスを受ける側が相当の対価を払うのは当然のことです。互いに尊敬し合い、払うべき対価は払うということですね。もともと日本はサービスに対する対価が安すぎます。ホテルを例に挙げれば、海外の同等レベルのサービスを提供するホテルに比べて、日本のホテルは圧倒的に安いわけです。現在の円安という状況を差し引いても日本のホテルは安すぎます。人材を確保し一定のサービス・品質を維持するためにも、料金を値上げし給料を上げていく必要があるのではないでしょうか。それによって観光産業に人材が集まり、観光産業の発展につながっていくものと考えています。

-最後に読者にメッセージをお願いいたします。

清野 観光は絶対に必要な産業です。世界史的に見ても文明が進み経済が豊かになると、人間は自分が暮らす土地以外の場所を、言葉を、文化を体験してみたくなる動物です。そうした気持ちは人間の本能に組み込まれていて、その思いが果たされなければ人間は衰退に向かいます。また同時に言えるのは、観光は人間社会に不可欠なものではあるものの、そこに携わる方々はこれまでと同じ形、同じやり方では生き残れないということ。新しい知恵を出していく必要があり、知恵の出し方が優れた者が勝ち残ります。

 世界人口の10人に1人が観光産業に関わると言われます。そのように人間にとっても大切で、世界にとっても重要な産業に関わっている自信とプライドを持って、観光産業の発展に寄与していただきたいと思います。

-ありがとうございました。