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【会計士の視点】HISのGotoトラベル不正受給問題とは何だったのか、決算の影響は?

  • 2022年4月12日

ジャパンホリデートラベルの事件がHIS決算に与えた影響

 次にジャパンホリデートラベルの事件について解説すると、これもやはりJHATが関与したもので、2020年10月にJHATの社長より「法人4社の顧客を紹介するので、JHATの運営するホテルで研修付き宿泊の受注型企画旅行をやらないか」との提案がなされ、その企画を実施したものの、実際には当該研修旅行はほとんどの人が参加していない実態の乏しいものだった、というものです。

 スキームとしては、ジャパンホリデートラベルが客室をJHATから買い取って法人顧客に販売し、ホテル仕入代金をJHATに、研修教材費用をW社(報告書上も名前が明らかになっていない外部の会社)に支払い、粗利率としては3%を残すものでした。なおこの粗利率についてはJHATが取り決めをおこない、ジャパンホリデートラベルは関与していないと報告書では結論づけられていました。

 この場合ジャパンホリデートラベルは客室を買い取ったホテルの提供者の立場となるので、GoToトラベルの給付金と地域共通クーポンはジャパンホリデートラベルがまず受取り、その後地域共通クーポンは最終的に法人顧客に渡されることになります。(ジャパンホリデートラベルとしては、宿泊代金の65%を法人顧客から、35%分をGoToトラベル事務局から受け取ることになります)

 このスキームではミキ・ツーリストのように「JHATから協賛金を受ける」「部屋を買い取ったはいいが活用しない」といった不自然な動きも必要なく、外見的には「普通に企画型旅行を販売して、取扱高の3%が粗利として残った」という、ごく普通の取引となります。

 またこのスキームだとほぼ実態のない研修旅行に法人顧客がお金を支払うだけになるので、おそらく法人顧客とJHAT・W社との間でミキ・ツーリストでいう協賛金のような何かしらかの資金の動きはあると思うのですが、HISの報告書ではそこについては特に触れられておりませんでした。(外部の会社同士の話なのでHISにとっては関係なく、また調べようもないので仕方ないと思います)

 こうした事情から会計上の影響はミキ・ツーリストのものとも異なり、若干ややこしくなっています。決算説明資料によると、以下のような修正をおこなっています。

出典:2021年10月期決算説明会資料 P4

 まず売上高と売上利益については、普通に取扱高の税抜金額を売上から取消し、97%の原価を取り消すことで、粗利益が減るという処理になります。

 この売上と売上原価の処理はただ単に取り消しているだけなので分かりやすいのですが、問題はその次の販管費の処理で、これについては正直決算説明資料の書き方が分かりづらいと思っていて、私の理解だと

  • GoToトラベル事務局から既に3億1249万円の給付金と地域共通クーポン3億3000万円を受け取っており、これらについては返還義務がある(合計6億4249万円)


  • これらについては、基本的には法人顧客4社から回収すべきものだが(割引を受けたのも、地域共通クーポンを受け取ったのも法人顧客となるため)、実際にはどこまで回収できるかは分からない


  • そのため、既に入金された分から既に支払った分を引いた、「手元にキープできている分」だけを回収可能性ありとして、残り全額を損失とした


  • 既に入金されている分としては、旅行代金のうち入金済の14億3137万円と、GoToトラベル事務局からの3億1249万円の給付金の合計17億4386万円


  • 既に支払った分としては、JHATに1559万円、W社に15億791万円の合計15億2350万円


  • そのため手元に残っているのは2億2036万円(17億4386万円-15億2350万円)


  • 以上からGoTo事務局に返還すべき6億4249万円から手元にキープできている2億2036万円を除いた4億2213万円を回収可能性不明として損失処理

 ということだと思います。

 このジャパンホリデートラベルの不正については、調査委員会報告書でも法人顧客4社からJHAT経由で部屋番号、到着・出発日を含めた宿泊者の氏名が記載された宿泊名簿が提出されており、またその後の経緯からしても「ジャパンホリデートラベルが悪意をもって不正に受給しようとした主観的意図が損したものとは認められなかった」と結論づけられております。

 ミキ・ツーリストの場合は明確に共謀する意図がなければできないスキームですが、ジャパンホリデートラベルについては、確かに宿泊名簿が提出され、その分のお金もきちんと入金されていた以上、不正だと見分けるのはなかなか難しいとは思います。

 おそらくこういう法人の研修旅行だと通常でもある程度のノーショウは起こり得て、ただ特にトラブルもなく先方から入金されるということは考えられ、さらに実際にホテルを運営しているのは不正受給の意図があると考えられるJHATなので、仮にそこに問い合わせても「きちんと研修旅行していましたよ。実際に入金もあって先方からもクレームとかないですよね?」と言われる可能性が極めて高いと思われます。

 以上がこの2社の不正受給事件の概要と、その会計処理でした。

 上記のように、仮に不正が成功したとしても得られた利益はミキ・ツーリストの場合で1920万円、ジャパンホリデートラベルについても6000万円程度ですが、会社としてはとりあえずGoToトラベル事務局への返還を全額会社負担でおこなう前提で計算し、ミキ・ツーリストについてはさらに同じく共謀したJHATからの協賛金も全額返金する前提で計算しています。

 その結果、決算への影響がミキ・ツーリストで▲1億円、ジャパンホリデートラベルで▲4億8000円となり、しかもHISグループのブランド評価も大きく下がる・・・・という踏んだり蹴ったりの状況だと言えます。

 では、次にこの不正受給事件が、HISグループ全体での組織的なものだったのかということや、「他に不正受給はないのか?」といった観点について、私の考えを書きたいと思います。

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