旅館の良さを新感覚“RYOKAN”で-ONSEN RYOKAN 由縁 札幌 支配人/エリアマネージャー 粂川正氏

  • 2021年12月2日

コロナ禍は成長を示すための準備期間
利用のハードルを下げて若者や外国人客にも

-コロナ禍中の2020年8月の開業はどのような状況でしたか。

粂川 宣伝もPRも何もかもが難しい環境で、正直なところ集客には苦労しました。特異な時期のスタートになったため、施設のあり方をどのように形作っていくかにも頭を悩ませました。単価をどう設定すべきか。大手ホテルがぐいぐい値下げしてきましたが、つられて料金を下げれば将来のお客様からの見え方に響くし、ほかの由縁シリーズにも影響しかねません。ですから、ここは値下げはすまいと考えましたが、料金をキープするのは簡単ではありませんでした。

-客室平均単価は、開業前の想定からそれほど下がらなかったわけですか。

粂川 実は少し上がったくらいでした。道内の旅行需要が想像以上に多く、料金を想定以上に上げてもお客様の需要がついて来てくれた面があります。開業当初の宿泊割合は道民が7割を占めました。道民が札幌に宿泊でいらっしゃる場合、買い物目的が大きいのですが、買い物以外のちょっとした魅力があると強みになります。私たちの場合は温泉の存在がそれでした。

 客室平均単価は想定以上の結果が出ましたが、一方で稼働率は十分とは言えませんでした。しかし客室が埋まっているかどうかより、客室がどれくらいの料金で販売されているかの方がお客様には見えやすく、宿泊施設としての評価やイメージへの影響度が大きいと考えているので、これで良かったと思います。

-コロナ禍中のコストセーブについては、どのような工夫をしましたか。

粂川 レストランのランチとディナーの営業を休止し、朝食だけに絞って人件費を削減しました。ほかにも宿泊のお客様にご迷惑が掛からない範囲で、人件費を最少化したうえで売上を最大化することに努めました。また単なるコストセーブと言うより、地域との連携という意味合いが強いのですが、自治体と食材の面で連携しました。具体的には根室市と協力して朝食用の食材を提供してもらい、その代わり館内に根室市のポスターやPOPを掲示して観光PRに協力しました。10月に3日間の期間限定で実施しましたが、次はニセコ町との連携を準備中です。

-国内旅行需要やインバウンド需要の本格的な回復はいつ頃になると想定していますか。

粂川 社内でも意見が様々で正解は分かりませんが、札幌のインバウンドに関してはまだ時間がかかりそうです。札幌のインバウンドの主体はアジアですが、中国を中心にアジアの回復が遅れそうだからです。もっともコロナ禍中の開業でしたから、そもそもインバウンド客の受け入れ経験が不足しています。コロナ期間をスタッフの準備期間と捉えて、需要復活後の繁忙期に耐えられる環境を整えておくことが重要だと考えています。

 国内旅行需要についてはGoToトラベルの再開が起爆剤になると思いますが、本格的な回復は来年夏からではないでしょうか。

-当初は道民向けの需要回復施策として実施され、後に道外からの旅行者にも適用されることになった「We love札幌」宿泊キャンペーンの効果はいかがですか。

粂川 道内のお客様には効果が大きかったと思いますが、道外のお客様に対しては発信が十分でなかったこともあって、効果は期待していたほどではありませんでした。施策自体は需要回復に貢献してくれていてありがたいですが、それを支える仕組みとシステムの整備が十分とはいえなかった部分があったとも感じます。

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