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「宿泊業界に足りないのはマネジメントのプロ」マネージャー・経営者の育成に取り組むー宿屋大学代表 近藤寛和氏

コロナ禍で高まる人材育成へ投資
ミレニアル世代の挑戦にも注目

-コロナ禍は受講者数にも影響していますか。

近藤 今年は受講生が大幅に減ることを覚悟していましたが、フタを開けてみると例年の1.5倍集まりました。閑散期の今こそ筋力アップのため人に投資しようと考える企業が多かったのが理由です。ジャンプアップのために割り切って、人を磨く機会として現在の時間を利用しようというわけです。

-東京YMCAホテル専門学校や立教大学観光学部で講師も務めていますが、学生への影響は。

近藤 コロナ禍でホテル・旅館業界がかなり傷んだため方向転換する学生はいますが、一部にすぎません。コロナ禍が去れば復活するし、むしろコロナ前より面白くなると期待している学生は多いです。YMCAの1学年120人ほどのなかで、2年次に進まなかった学生は5、6人です。その理由も、実習に行ってみたら想像と違ったというものでした。

-若者たちは何に惹かれて宿泊産業を志望するのでしょうか。

近藤 立教とYMCAでは全く違います。立教の学生はマネジメントや開発を志望し、外資系にも関心が高い。オーナーサイドの企業に入ってデベロッパーの立場でホテル開発に携わり、最終的には独立・起業してホテルプロデューサーになりたいという学生も多いです。一方YMCAの学生は現場の接客やおもてなしに携わりたいと考えています。競争の厳しい外資系より日本企業に人気があるのも特徴です。

 立教の学生が外資系企業を好む背景には、日本企業には幹部候補生制度がない事情もあります。全員が一から始めて接客の現場にも立たなければならないような企業には行きたがりません。日本のホテル企業は多くが中小企業。親会社は大企業でも、子会社として魅力的な人事制度やキャリアデザインまで用意できません。その点、外資系の国際ブランド企業はレイヤーもきっちり決まっており、目指す場所が見えやすいのが学生には魅力的に見えるはずです。

-現場志向の専門学校生に薦める就職先はどのような企業ですか。

近藤 人を大切にする宿泊企業へ行くよう薦めます。ホテル企業は、土地や建物のハードに価値があると考える不動産的発想の企業と、スタッフやサービスにこそ価値があると考える企業に大別されます。当然ですが不動産的発想の企業は人に投資しません。一方、スタッフやサービスに価値を見出す企業は人に投資し人材を磨きます。

-コロナ前、宿泊産業は大変な人手不足でしたが、需要が回復した際には再び人手不足に悩むことになるでしょうか。

近藤 マネジメント層と現場では事情が異なります。コロナ禍の現在も京都では高級ホテルが次々に開業し、マネジメントは全く足りていません。総支配人はもちろん、人事やレベニューマネジメント、マーケティングなどのプロが不足しています。悪く言えば素人集団でホテルを運営せざるを得ない状況も今後は出てくるのではないかと危惧しています。

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