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「宿泊業界に足りないのはマネジメントのプロ」マネージャー・経営者の育成に取り組むー宿屋大学代表 近藤寛和氏

コロナ禍で高まる人材育成へ投資
ミレニアル世代の挑戦にも注目

 日本の宿泊業界に決定的に不足しているとされるマネジメントのプロフェッショナル。その養成に取り組むのが宿屋大学だ。代表の近藤寛和氏が、ホテル業界の勉強会を発展させてプロの養成講座を作り上げた。コロナ禍に揺れる宿泊ビジネスについて、人材育成の視点から現状と課題を語ってもらった。(聞き手:弊社代表取締役社長兼トラベルビジョン発行人 岡田直樹)

近藤氏

-はじめに宿屋大学について説明してください。

近藤寛和氏(以下敬称略) 宿屋大学は宿泊業に特化したビジネススクールで、主にホテルや旅館のマネージャー育成を行っています。いわゆる接客やおもてなしについての教育は行っておらず、マネージャーや経営者の育成がメインで、一番コアな目的はホテルの総支配人育成です。また、これとは別に都道府県等の行政組織や観光協会から幹部候補生向けの研修を受託しています。ビジネススクール事業と研修事業が宿屋大学の事業の2本柱です。

 宿屋大学は学生を対象としておらず、受講者はホテルビジネスの実務に携わる若手が中心です。教育プログラムの中心であるプロフェッショナルホテルマネージャー(PHM)養成講座を例にとると、受講者の6割から7割がホテル企業から派遣された総支配人や支配人の次期候補者、2割が自分のポケットマネーで受講するホテリエで、1割がホテル・旅館の事業継承者、いわゆる跡継ぎの方々です。

 立ち上げは2010年4月で、昨年10周年を迎えました。この間、PHM講座を約240人が受講しており、8ヶ月間・17講座の濃密な内容を全て受講して修了した者は半分の約120名。そのうち30名ほどが現役の総支配・支配人として活躍中で、総支配人を経て経営者や経営幹部としての仕事に就いている修了者もいます。

-ご自身の紹介もお願いいたします。

近藤 1992年にホテル業界専門誌の出版会社、オータパブリケイションズに入社し、2010年までの18年間お世話になりました。この間、「HOTERES(週刊ホテルレストラン)」編集部記者や、書籍編集者、イベント企画、人材紹介会社の立ち上げ、人材広告などの仕事を経験しました。なかでも力を注いだのがホテルマンを目指す若者の就活支援事業でした。その一環で「ホテル業界就職ガイド」の創刊(1996年)やホテル業界就職セミナー開催などを手掛け、就活支援の仕事を10年ほど続けましたが、後輩が育ち就活支援は任せて、自分はホテル業界人の人生の応援を始めました。具体的には勉強会やセミナー開催、「ホテル・レストラン業界キャリアアップガイド」の制作、ホテル業界専門SNS「AT HOTEL」の立ち上げです。

 勉強会「宿屋塾」は2000年にスタート。社内の一事業として10年ほど続けるなかで限界も感じ、ビジネススクールに発展させた方が有意義だという気持ちが高まりました。そこで2010年にオータパブリケイションズで手掛けてきた事業を持ち出す形で独立し、「宿屋大学」をスタートしました。宿屋大学は宿屋塾や各種セミナーを体系化したもので、宿屋塾の流れを汲む取り組みということになります。

-中心的プログラムであるPHM講座は、どのような思いや課題を持って作ったのですか。

近藤 ホテル業界には「現場を回す」という意味でのプロフェッショナルなオペレーターはいても、マネジメントのプロが少ない、あるいはマネジメントに関してホテルマンの勉強が欠けていると思います。だから、レベニューマネジメントやデジタルマーケティング、リーダーシップに対する理解が足りない。これまではそれで通用しました。ホテルは不動産ビジネスの添え物、グループのブランドイメージを上げるためのお飾りだから儲けなくていいと、オーナー企業が明言する時代もありました。ですがこれからはホテルマンがそれぞれ勉強に励み、自分を高めていってほしいと考えて作りました。

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