海外医療通信2021年4月号【東京医科大学病院 渡航者医療センター】

  • 2021年4月26日

※当コンテンツは、東京医科大学病院・渡航者医療センターが発行するメールマガジン「海外医療通信」を一部転載しているものです

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東京医科大学病院 渡航者医療センター

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海外医療通信 2021年4月号

海外感染症流行情報 

(1)全世界:新型コロナウイルスの流行状況

新型コロナウイルスの累積感染者数は4月下旬までに約1億4500万人、死亡者数は約300万人にのぼっています(米国ジョンホプキンス大学 2021-4-24)。4月も世界各地で感染者数が増加しており、とくにインド、アルゼンチン、イラン、トルコ、ドイツなどでの感染者数が多くなっています(WHO Corona virus disease 2021-4-20)。英国型の変異ウイルスは137か国、南アフリカ型は85か国、ブラジル型は52か国に拡大しており、世界的に流行株は変異ウイルスに置き換わっている状況です。WHOはいずれの変異株も感染力が強いとともに、英国型、南アフリカ型は病原性が増強している可能性があると報告しています。なお、WHOは現在、ファイザー社、アストラ・ゼネカ社、ジョンソン&ジョンソン社のワクチンを途上国などでの接種に用いていますが、今後、中国製のワクチンがこれに加わる可能性があります。Coronavirus disease (COVID-19): Vaccines (who.int)
日本では英国型変異ウイルスによる第4波の流行が発生しており、政府は4月25日から緊急事態措置を東京都、大阪府、兵庫県、京都府に発令しました。水際対策の強化も当面、継続されることになります。

(2)アジア:鳥インフルエンザ患者の発生状況

ラオス北部で5歳男児がH5N6型の鳥インフルエンザを発症しましたが、その後、回復しました(ヨーロッパCDC 2021-4-9)。H5N6型は中国で2014年以来、30人以上の患者が発生しており、このうち17人が死亡しています。今回のラオスのケースは中国以外で初めての患者になります。中国ではH9N2型の鳥インフルエンザ患者も発生しており、この1ヶ月で2人の患者(10歳男児、2歳女児)が確認されました(WHO西太平洋 2012-4-16)。H9N2型の症状は一般に軽症です。

(3)アジア:デング熱の流行状況

今年は東南アジア各国のデング熱患者数が例年より少なくなっています(WHO西太平洋 2021-4-8)。昨年、大きな流行のあったシンガポールでも、今年の患者数は4月上旬までに1700人と、昨年より大幅に減少しました。今後、多くの国が雨期に入るため、引き続き注意が必要です。

(4)アフリカ:ギニアのエボラ出血熱流行

今年1月から西アフリカのギニアで発生していたエボラ出血熱の流行は、一時鎮静化していましたが、4月になり再燃がみられています(WHOアフリカ 2021-4-6)。累積患者数は23人で、このうち12人が死亡しました。

(5)中南米:ハイチで狂犬病が増加

カリブ海のハイチでは、イヌへの狂犬病ワクチン接種が滞っており、狂犬病に感染したイヌが増加している模様です。こうした状況から、米国CDCはハイチに渡航する者に感染症警戒情報を発出し、出国前の狂犬病ワクチン接種を呼びかけています(CDC Traveler’s Health 2021-4-15)。

日本国内での輸入感染症の発生状況(2021年3月8日~2021年4月11日)

最近1ヶ月間の輸入感染症の発生状況について、国立感染症研究所の感染症発生動向調査を参考に作成しました。出典 2021年 (niid.go.jp) 新型コロナウイルス感染症の輸入例については、厚労省発表の検疫実績(2021年4月7日)を参考にしています。出典 000770136.pdf (mhlw.go.jp)

(1)経口感染症:輸入例としては赤痢アメーバが3人だけでした。
(2)昆虫が媒介する感染症:マラリア、デング熱の症例はこの期間に報告されませんでした。
(3)新型コロナウイルス感染症:2021年2月28日~3月27日までに147人が輸入例として報告されており、前月(90人)より増加しています。このうち日本国籍者は61人でした。感染者の滞在国で多かったのはパキスタン31人、フィリピン13人、ウクライナ12人、米国12人、UAE8人でした。
(4)その他:HIV感染症の輸入例が7人と多くなっています。感染国はベトナム3人、タイ2人でした。

今月の海外医療トピックス

行きはよいよい、帰りは大丈夫ですか?

新型コロナのパンデミックが始まり1年以上が経過しました。当センターには「渡航未定ですが、チャンスが来た時のために準備したい」という方、「ようやく渡航が決まりました」と直前準備に忙しい方が受診されています。パンデミック以降、各国が入国者にコロナ検査証明書を要求しているため、当センターも、昨年からPCR検査と渡航国に応じた証明書の発行をしています。一方、日本でも3月から全入国者に対し、出国前72時間以内に実施した検査証明書を要求しています。検査方法や証明書の記載内容は詳細に指定されており、スマートフォンに指定の4種アプリがダウンロード済みであることも必要です。アプリをダウンロードできるだけの容量確認や、現地ネット環境を考慮した準備もしておいてください。当センターの受診者に、日本への入国規制についてお話すると、直近の出発準備に忙しいためか、よくご存知ない方が多いようです。出国時や現地滞在中のみならず、日本帰国時も健康監視期間終了まで、膨大な手続きと忍耐を要します。渡航を計画中の方は、本当に必要な渡航なのかを検討するとともに、日本帰国時の準備もして頂けたらと思います。(臨床助教 栗田直)

【参考】
・厚生労働省:水際対策に係る新たな措置について(全体)
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00209.html
・厚生労働省:スマートフォンの携行、必要なアプリの登録・利用について
 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00250.html

渡航者医療センターからのお知らせ

(1) 当センターの2021年4月からの診療体制

当センター部長の濱田は2021年3月で東京医科大学教授を定年退職になりましたが、4月より特任教授に着任し、渡航者医療センターの部長を継続しています。このため当センターの診療体制に大きな変更はありません。引き続きよろしくお願いいたします。

(2) 当センターで実施中の臨床研究

当センターでは様々なワクチンに関する臨床研究を行っており、協力者に抗体検査などを無料で提供しています。詳細は当センター講師の福島までお問い合わせください。(travel@tokyo-med.ac.jp)。

・狂犬病ワクチン接種後2年間以上経過した人の狂犬病ウイルス抗体価に関する研究: 過去に狂犬病ワクチンの接種歴(何回接種でも可、曝露前でも曝露後でも可)があり、最終接種から2年以上の間隔があいている人の狂犬病ウイルス抗体価を測定しています。ただし、接種記録がある方に限ります。
・黄熱ワクチン接種後5年間以上経過した人の黄熱ウイルス抗体価に関する臨床研究: 過去に黄熱ワクチンの接種歴(1回のみの方)があり、接種から5年以上の間隔があいている人の黄熱ウイルス抗体価を測定しています。ただし、接種記録がある方に限ります。