新春トップインタビュー:日本旅行業協会会長 田川博己氏

16年は「海外旅行復活」、中韓や若者への取組強化
訪日増踏まえ業界制度改善

-訪日旅行や国内旅行についてはいかがでしょうか

田川 訪日旅行の増加は続く見通しだが、一方でツアーの品質の低下や、ガイドやホテルの不足などさまざまな課題が山積している。ツアーの品質については、「ツアーオペレーター品質認証制度」を活用し、必要によっては法整備をおこなう時期にあると思う。

 これからは世界各国で外国人観光客誘致に向けたピーアール合戦がおこる。例えばブランドUSAは、9.11の同時多発テロ事件やハリケーン・カトリーナなどからの再生をはかり、予算を費やして米国への誘客を必死におこなっている。一方で日本は、東日本大震災後も必死に活動しているとは言い難い。これから実施するのが本当のビジット・ジャパン事業で、その集大成が20年の東京オリンピックイヤーではないか。

 また、インバウンドのクルーズについては、買い物目的で訪問する「買い出しクルーズ」ではなく、数ヶ所に寄港し、オプショナルツアーに参加してその土地を楽しむ「本物のクルーズ」を増やしたい。買い出しクルーズは日本経済にとっては非常に良いことだが、この先10年も同じ状況が続くとは思えない。海から見る日本の景色もクルーズの醍醐味の1つなので、「海から見る日本」もアピールすれば良いのではないか。

 近年では医療ツーリズム、エコツーリズム、ショッピングツーリズムなどさまざまなテーマによるツーリズムが出てきているので、色々な人に広い視野でツーリズム事業をおこなって欲しい。例えば、世界各国の技術を視察するテクニカルビジットのように、日本から「ものづくり技術」や「環境技術」を世界に発信し、産業ツーリズムを盛り上げればよいのではないか。そのことにより、日本のブランドはより高まっていくだろう。

 国内旅行については、地方創生の推進に取り組んでいる。着地旅行の推進については、外国人をターゲットにして旅行コンテンツを作っているケースが多いが、日本人の国内旅行向けにも活用できるのではないかと思う。

 また、今年は震災から6年目となるが、東北復興支援プロジェクトの「みちのく潮風トレイル・JATAの道」にも、引き続き取り組んでいく。阪神淡路大震災など、これまでに経験したさまざまな天変地異では、3年から4年は住宅や道路の整備などハード面の復興に注目が集まっていたので、今年はいよいよツーリズムでの再生の出番が来ると考えている。


-今年は「ツーリズムEXPOジャパン」にとって3年目の「ジャンプの年」ですが、どのように取り組むお考えですか

田川 今年は第1期の完成形を迎える年となる。日本観光振興協会(日観振)とJATAはEXPOを始めるにあたり、十数個の目標を決めた。海外・国内・訪日の三位一体となっているか、BtoB、BtoCにおける商談会やピーアールがしっかりできるか、顕彰事業が成果を上げられるか、アジアでのリーダーシップを取れるイベントに完成させられるかなど、これらを達成させるのが16年だ。

 今年を含む3年間で土台を造り、その上に建物を建て始めるのは17年以降だ。19年と20年は東京オリンピックの影響で東京では開催できない可能性が非常に高いので、EXPOとして完成するのはおそらく21年になる。すでに完成したと考えている人もいるが、まだまだ一般のマスコミなどの注目度は低い。「知る人ぞ知る」存在から、いかにして次の段階に持っていくかが課題だ。

 旅行会社の仕事はなかなか「見える化」できないが、EXPOは「見える化」できる唯一の舞台なので、そのなかで色々なものを表現していきたい。EXPOは大人数を集客する定番ツアーではなく、各社が知恵を振り絞った、自社の特徴が際立った商品をアピールする場だと思う。

 旅行市場はすでに細分化し、100万人の市場が1万人ずつの100個の市場に別れてしまった。各社がそれぞれに、得意とする市場を取り上げればいいのではないか。