itt TOKYO2024

激動の時代を乗り切る経営者とは-トラベル懇話会新春講演会

  • 2015年2月10日

予測できない将来を乗り切り
50年後に感謝されるために

複数のシナリオに対し準備を
最後には「開き直り」も

 加えて、経営者は複数のシナリオを用意しなくてはいけない。例えば、米国の国家情報会議は大統領のために、定期的に中長期的な世界の動向予測をおこなっているが、2008年に作成したシナリオでは、「中国とインド、ロシア、イランが軍事協力したら」「気候変動でハリケーンがニューヨークを水没させたら」といったシナリオも作成している。現実化する確率は低いとはいえ、実現すれば米国に激甚な影響を与えることになるからだ。企業においても、同様に危機管理のためのシナリオを徹底的に考え、変化に対応していく必要がある。

 さらに、未知を乗り切るには経営者のマインドが重要になる。第一次南極地域観測隊の越冬隊長を務めた西堀榮三郎氏は、「初めて訪れた南極では知らないことばかりで、生きていくためにはイノベーションが不可欠だった」と語っていた。南極では暖房が命綱となるが、当時の昭和基地の建物は耐火性に乏しかったので、石油の入ったドラム缶を200メートル離れたところに置いていた。しかし真冬になるとブリザードが吹くので、取りに行くと遭難の可能性がある。そこで西堀氏は徹底的に考え、短いパイプに包帯を巻きつけて凍らせたものを何本もつなげてパイプラインを自作し、基地まで石油を流し込んだ。素晴らしいアイデアで、そこには「何が起こっても創意工夫で乗り切る」という信念が感じられる。

 先が見えない不測の事態に陥った時、経営者が最終的にすべきことは、楽観視だ。そのような状況では、大抵のメンバーが萎縮してしまっているが、経営者まで萎縮していてはいけない。生き抜くためには「火事場の馬鹿力」が必要で、窮地においても自分を信じ、知恵を絞らなくてはイノベーションは生まれない。楽観視するためには準備を重ねることが必要で、晴れの日には雨の日の準備、雨の日には晴れの日の準備が必要になる。最終的に「これ以上の準備は無理」というところまで行ったら、開き直ればいい。

 ただし、我々がいま議論すべきは、「いかに儲けるか」だけではないだろう。先ごろ開催された、東京オリンピック関連のパネルディスカッションで、オリンピックに出場した元陸上選手の為末大さんと意見交換をおこなったが、彼は50年前の東京オリンピックを振りかえって、「あの頃、先輩方が新幹線や沢山のホテルを造ってくださったことが有難い」と語っていた。そして、「2070年に後輩たちが50年前の東京オリンピックを振り返った時に、『有難い』と言われたい」とも。私も50年後の後輩たちに、「旅行業界にとって良い2020年だった」と言われるよう、日本の観光振興のお手伝いをしていきたいと考えている。