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地域との協力で質を向上、インバウンドの取り組み増を、JATA経営フォーラム

  • 2012年3月22日

 2010年までに2000万人とする観光庁のビジット・ジャパン・キャンペーン(VJC)は、目標を達成できないまま東日本大震災を受け、目標値を1000万人に変更した。しかし、ただ人数だけではなく、質を向上させて国内での旅行消費を増やすことも肝要だ。2月に開催されたJATA経営フォーラム分科会では、今後のインバウンド拡大に向け、政府、自治体、ホテル、旅行会社から選出されたパネリストが現状の課題と今後の提案が語られた。

モデレーター
JTBグローバルマーケティング&トラベル 代表取締役社長 深川三郎 氏

パネリスト
近畿日本ツーリスト 訪日旅行部長 稲田正彦氏
観光庁 国際交流推進課長 亀山秀一氏
ホテルオークラ 取締役常務執行役員 後藤建二氏
東京都 産業労働局 観光部長 横山英樹氏


渡航者数増加だけでは収益につながらず
“量より質”を重視

JTBグローバルマーケティング&トラベル代表取締役社長の深川三郎氏

 昨年の貿易収支は約30年ぶりにマイナス成長となった。日本経済はサービス収支を中心としたものに移行しており、旅行業がその中核をなす重要な産業であることは疑いないところだ。

 しかし、現在の国際旅行収支は大赤字だ。モデレーターを務めたJTBグローバルマーケティング&トラベルの深川氏によると、外国人が日本で消費する額が1.2兆円、反面日本人が海外で消費する額は3.2兆円で、旅行収支としては約2兆円のマイナスになる。国内・海外を合わせた旅行収支全体は25.5兆円(2009年)だが、インバウンドの収入がわずか1.2兆円というのは非常にアンバランスである。観光庁は「2016年までに30兆円に」という目標を打ち出したが、この格差の解消も急務だ。そのため、観光庁では単に旅行者数を伸ばすだけではなく、富裕層に向けたプロモーションや、滞在期間の長い旅行者の誘客を念頭においている。

 「これはホテル業界の問題でもある」というのはオークラホテルの後藤氏。「いくら多くの旅行者が来ても、宿泊費を値下げしているため収益が増えているわけではない」といい、「価格の安さではなく、日本式のホスピタリティや質の高さをポイントにしていかなければ、収益をあげることはできない」と話す。

 ただ、近畿日本ツーリスト(KNT)の稲田氏は「“富裕層”とはいったいどこにいるのか見えていない」と現実のプロモーションの難しさを指摘する。また、旅行商品自体の“質”についても見直しが必要だ。亀山氏も「富裕層といっても料金を気にしないわけではない」というとおり、高額商品=富裕層向け、と単純にはいかない。

 また、リピーターの獲得も重要だ。魅力的な観光地であることもさることながら体験型のアクティビティで印象深い思い出を残すことによって「また来たい」と思わせることができるため、そうした素材の造成も必要である。

 亀山氏によると、2010年にカジノがオープンしたシンガポールは、同年の訪問者数の増加率は前年比で2割ほどだったが、収益は倍になったという。カジノは政府の決断が絡んでくるが、「ひとつの要素として視野に入れていくべきでは」と話した。“体験型”“高収益”がキーワードだ。