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現地レポート:メキシコ、カラフルな街散策で女性層へアピール

  • 2011年1月28日
「街の魅力」を打ち出し、メキシコのツアーバラエティ拡充へ
民族色豊かなオアハカ、タイルの街プエブラの散策


 日本発のメキシコツアーは、ビーチリゾートと遺跡観光を目的としたメキシコシティ/カンクン/メリダの周遊コースが約9割を占めている。しかし、今後も収益性を確保していくためにはツアーバラエティを増やし、価格以外の競争力をつける必要がある。また、安定性という面では従来のハネムーナー、シニア以外の客層を広げることも重要だ。こうしたなか、アエロメヒコ航空(AM)は「メキシコ+1(プラスワン)」を合言葉にデスティネーション開拓に乗り出した。その第1弾のFAMツアーでは民族の文化が色濃いオアハカを取り上げ、古都プエブラと組みあわせたルートを紹介。参加者の多くが女性層への新ツアーの可能性を感じていた。
                             
                              
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民族と色彩の街、オアハカ
今のメキシコ人が創る多様性に触れる


 メキシコは紀元前から各地に多くの文明が栄え、16世紀のスペイン軍の侵略後は主要都市にコロニアルシティが築かれた。日本の約5倍の国土には世界遺産が31ヶ所あることからも、その土地ならではの自然や歴史、文化の豊かなデスティネーションであることをうかがい知ることができる。

 なかでも、オアハカ州は人口に占める先住民族の割合が最も高いといわれ、その州都であるオアハカは「メキシコが凝縮したような街」と例えられる。コロニアルな歴史地区を行き交う人々はアジア人を彷彿とさせる顔立ちで、先住民族のルーツは日本人と同じモンゴロイドであることを思い出させる。

 そんな歴史地区の中心部、人々が集う賑やかなソカロ広場から北へ、オアハカの観光スポットのひとつであるサントドミンゴ教会へ向かうと、色彩やかな街並みが現れる。オレンジや水色、グリーンなど壁がカラフルにペイントされ、雑貨店や飲食店は看板や店構えもユニーク。思わず中を覗きたくなり、つい歩みが止まる。

 店舗内も色とりどり。何色もの糸を使った織物や刺繍の美しい民族衣装、かわいらしい民芸品などを置く土産店のほか、洗練されたアクセサリー店やブティック、芸術性の高い絵画を売るギャラリーもあり、それぞれのデザインにオアハカに暮らす先住民の文化が感じられる。目的地となるサントドミンゴ教会の近くには土産物用の民芸品を売る屋台が集まっており、刺繍入りのブラウスは80ペソ程度から。そんな物価も、散策中の買い物意欲をかきたてる。

 一方、ソカロ広場の南にはベニート・フアレス市場をはじめ複数の市場があり、おしゃれな雰囲気の北側よりも市民の活気に満ちている。市場では野菜や肉、穀類など食料品から日常雑貨などが売られ、市民生活を肌で感じることができるエリアだ。

 サントドミンゴ教会からベニート・フアレス市場までは800メートル程度。通りは碁盤の目のようになっており、方向がつかみやすく、わかりやすい。ほとんど英語が通じないが、人々は素朴で穏やか。強い客引きもなく、好奇心を前面に出して安心して歩けるのも、散策を楽しむ要素となる。「女性に受けると思う」「街を打ち出した新ツアーの可能性を感じた」と、参加者の多くが好感触を得ていた。何より視察中、女性の参加者の歩みが遅れ、たびたび男性陣を待たせてしまったのも、女性を夢中にさせることができる証拠といえるだろう。




モンテ・アルバン遺跡や先住民の芸術村
連泊して楽しめる近郊の見どころも


 オアハカ近郊には、世界遺産に登録されたモンテ・アルバン遺跡やミトラ遺跡、ヤグール遺跡のほか、アメリカ大陸で最大の木である樹齢2000年のトゥーレの木など、見どころが多い。特にモンテ・アルバン遺跡は中米で最古といわれ、紀元前500年ごろからサポテコ族の宗教都市として栄えた遺跡内には太陽のピラミッドで有名なテオティワカンとの交流を示す遺跡もある。オアハカ市街よりも400メートル高い山の上に作られたため、遺跡を見渡せる南北の基壇からは、周囲の景色まで一望できる。

 また、今回は視察できなかったが、近郊には先住民族が暮らす小さな村々もあり、それぞれティアンギスと呼ばれる青空市が開催されている。陶器や織物など民芸品作りで有名な村もあり、そのなかのひとつ、羊毛製品の生産が盛んなテオティトラン・デル・バジェでは、羊毛を糸によるところから染色、織物の実演まで、見学できる工房もある。こうした村の訪問が入っているツアーも出始めており、これらを含めてじっくり観光するならオアハカでの連泊が必要だ。

 宿泊先は、旅行者のタイプにあわせた施設を用意できる。例えば歴史地区の修道院を改装した高級ホテル「カミノ・レアル・オアハカ」は、建物の文化的価値を楽しみたい人はもちろん、街散策を主目的とする人によさそうだ。一方、歴史地区から少し距離を置き、客室が広い「フィエスタ・イン・オアハカ」は、ゆったり静かな滞在を希望する人に向いている。また、市街が眺められる高台の立地の5ツ星ホテル「ビクトリア」、さらに今回は訪れていないが、現地の伝統的な民間療法のスパを備える「ロス・オリーボス」もある。


コロニアルシティにはそれぞれの味わい
陶器の街、プエブラ


 メキシコシティから120キロ離れたプエブラは植民地時代、銀を出荷港であるベラクルスへ運ぶ際の交通の要所として栄え、当時は国内でメキシコシティの次に大きな都市であったという。現在も人口130万人の大都市であるが、世界遺産に登録されている歴史地区は古都の情緒があり、メキシコシティからの日帰りツアーで組み込まれることが多い。

 プエブラの歴史地区もコロニアルな街並みだが、他の都市と違いを際立たせるのが、白地に青色の柄を描いたタラベラ焼と呼ばれるタイルや陶器だ。素焼きのタイルで作られた赤い壁にタラベラ焼のタイルが埋め込まれている建物が多く、こうした街並みを自分の足で歩きながら、2つの鐘楼が特徴的なカテドラルや黄金で装飾されたロサリオ礼拝堂があるサントドミンゴ教会などを見学し、エルパリアン市場で土産物を物色するのが、プエブラ観光の主流だ。

 街にはタラベラ焼の工房があり、土産品の購入のほか、制作過程の見学も可能。職人が筆で丁寧に絵付けする様子を見学しながら、工房のスタッフの説明を受けられる。「街の魅力にタラベラ焼のような分かりやすい素材があるので、お客様に紹介しやすい」という意見があったように、その土地に根付くそれぞれの文化の違いが、街を主目的とする周遊旅行をより魅力的に演出してくれる。

 なお、今回の行程はメキシコシティからバスでプエブラを通ってオアハカへ。復路は飛行機でメキシコシティへ戻るという新しいルート。空路のないプエブラとオアハカ間を陸路で移動するのがポイントだが、その距離は約400キロ、休憩含め約5時間の道のりだ。

 途中、柱サボテンの群生するユニークな景色が見られるものの、特に立ち寄れる観光スポットはない。空路より安く組めるが、移動時間の魅力付けは課題となる。ただし「弊社のお客様は長距離の移動に慣れている方が多く、料金とあわせて納得されると思う」という参加者も。顧客の志向やツアーの対象客層を考えれば、答えが出るということだろう。


旅行の魅力を引き出すのは人
メキシコシティ基点に街巡りの可能性


 ゲートウェイとなるメキシコシティは人口800万人以上の世界有数の大都市だけに、地方都市と印象が大きく異なる。片側4車線の大通りには交通渋滞が起き、旧市街のソカロ広場は広大で圧倒されるほど。コロニアルな雰囲気のなかにアステカ帝国の旧跡、そして最新の現代文化が交じりあう。街歩きをメインとするツアーでは、大都市と地方都市とのギャップが、メキシコシティを基点とする魅力となる。

 日本で触れるメキシコは、麻薬がらみの犯罪などのニュースが報じられ、どちらかというとマイナスのイメージが強い人もいる。しかし今回、メキシコシティをガイドしてくれたメキシコ観光の宮下里恵子さんは「メキシコの人々の温かさを感じて日本に帰国する方も多い」と話し、「人の違いにこそ国の違いがある。その土地の人と触れあえる機会があると、メキシコツアーの魅力が増すのでは」と語る。そういう点で、今回提案する街の散策は、人と触れあう機会の多い観光である。街の魅力を打ち出すことで、よりメキシコらしさが感じられるツアーになるといえるだろう。



メキシコ旅行に新しい動き

 今回、FAMツアーに参加した旅行会社5社のうち、2社
は昨年上期、または今年からメキシコツアーの取扱いを
はじめた。日本発の航空座席数の総数が減少するなか、
旅行会社としては席数の確保と収益性を求めて新デステ
ィネーションに取り組む動きがあり、メキシコもそのひ
とつとして期待が高いようだ。

 ツアーバラエティの面でも新しい取り組みが見られる。
例えばルックJTBでは昨年下期からメキシコの単独パン
フレットを展開。定番コースやオアハカやプエブラなど
他のコロニアルシティを組み込んだコースのほか、マヤ
文明をテーマに周辺国との周遊コースも打ち出した。メ
キシコシティ・モノ商品では、テオティワカン遺跡観光
やローカルマーケット巡り、近郊都市への終日観光を用
意し、参加者が滞在中の観光を選べる工夫も。今上期も
同様の商品展開を継続し、「注目デスティネーション」
にも指定した。これにより、昨年以上の露出効果と市場
でのメキシコ旅行の周知が期待できるだろう。



取材協力:アエロメヒコ航空(AM)、メキシコ観光
取材:本誌 山田紀子