中小旅行業者のための財務・経理(1):運転資金調達のノウハウ
金融庁は2010年6月18日、改正貸金業法が完全施行されました。過剰貸付の禁止や上限金利の引き下げ、貸金業者への規制強化を盛り込んだもので、一般メディアでも注目されたことは記憶に新しいでしょう。本来は一般消費者の保護を目的としたものですが、中小企業や個人事業主への影響も懸念されてます。また、ゼロコミッション、BSP精算回数の変更、SAME DAY VOIDなども、旅行業の経営に影響を与えています。本連載では、こうした経営環境の変化を中小旅行業者の立場としてどのように受け止め、乗り切ることができるのかについて、財務・経理の観点から考えていきたいと思います。
武富士の倒産がもたらす影響
9月28日、消費者金融業大手の武富士が会社更生手続の開始申立を東京地裁におこない、倒産しました。サラリーマンを主たる取引先としていた武富士ですが、無担保、無保証、手続が簡単という理由で多くの個人事業者や、中小企業経営者も利用しているといわれています。
武富士以外の消費者金融業者も、過払金の返還請求や貸金に対する総量規制の影響で、経営が厳しくなってきているようです。そのため、当座の資金調達先として消費者金融業者を利用している事業者にとっては、資金需要があってもその調達に苦労することになると推測されます。
日本貸金業協会が2010年1月に公表した「資金需要者等の現状と動向に関するアンケート調査」で、貸金業者へ事業性資金の借入を申し込んだ企業経営者・事業主の6割が希望どおりの借入ができていない、との報告がなされています。武富士の経営破綻でこの傾向に拍車がかかると覚悟する必要があります。
中小旅行業者の資金需要
旅行業者は、製造業者のような設備投資が必要なく、卸売・小売業者のような在庫資金も必要とされている訳ではないので、開業資金は比較的少ない資金で起ち上げることが可能です。ですから、多くの旅行業者の方は、開業資金を自己資金、親族などの近親者からの借入、国民金融公庫(日本政策金融公庫)、銀行などで調達されていると思われます。
しかしながら、開業後の事業活動をしていくうえで運転資金が不足することがあります。法人顧客を相手に事業をしておれば、先方の締め日払いの関係で、一時的なチケット代金などの立替が生じることになります。また、団体客を取り扱う場合も、チケット代金や諸経費の立て替えが生じることになります。そのため、必要な資金調達能力がなければ、重要なビジネスチャンスをみすみす逸することにもなりかねません。
そのため、必要な時に必要な資金を調達できる体制を確保することが業界で成功する秘訣といえます。
中小旅行業者の運転資金の調達方法
手配旅行を中心に事業展開している事業者の場合、受注を確定させてからチケットなどの手配をするのが通常です。そのため、必要とされる資金量は容易に測定できます。また、客先に対する売掛債権の入金予定日と入金予定額も受注時点で概ね確定されています。ですから、旅行業者の場合、プロジェクト単位での資金計画をたてることが必要となります。しかも、受注直後に手配業務が必要となることもありますので、迅速な融資が約束されていることも重要な要件となります。
運転資金を銀行からの借入金に依存するならば、中長期的な資金需要を見込み、必要と想定される資金を確保することになりますが、見込どおりの受注がとれなければ、過剰借入となり、不要な金利を支払わなければなりません。また、銀行と取引をする場合には、担保や保証人を要求されるのが通常です。そのため、比較的少額で、借入期間も短時日の資金調達が要求される旅行事業にとって、運転資金を銀行借入に依ることは決して適切なものではないといえます。
そこで、旅行事業者の事業形態を考慮すれば、一定の融資枠(10万円〜500万円)を確保し、一括返済や増額返済が可能で、キャッシュディスペンサーによる引き出しが可能なカードローンを活用することが望ましいと考えられます。確かに、表面金利は銀行などの借入金と比較すれば高いといえますが、必要なときに必要なだけの資金を調達することができ、売掛債権が入金されれば、遅滞なく返済することによって支払金利負担も押さえることも可能です。
事業の実態に即した資金調達により、不要な金利負担をすることもなく、また、資金手当ができずに受注を見送るといったことを回避することができるようになるのです。
※このコラムは不定期で掲載します
武富士の倒産がもたらす影響
9月28日、消費者金融業大手の武富士が会社更生手続の開始申立を東京地裁におこない、倒産しました。サラリーマンを主たる取引先としていた武富士ですが、無担保、無保証、手続が簡単という理由で多くの個人事業者や、中小企業経営者も利用しているといわれています。
武富士以外の消費者金融業者も、過払金の返還請求や貸金に対する総量規制の影響で、経営が厳しくなってきているようです。そのため、当座の資金調達先として消費者金融業者を利用している事業者にとっては、資金需要があってもその調達に苦労することになると推測されます。
日本貸金業協会が2010年1月に公表した「資金需要者等の現状と動向に関するアンケート調査」で、貸金業者へ事業性資金の借入を申し込んだ企業経営者・事業主の6割が希望どおりの借入ができていない、との報告がなされています。武富士の経営破綻でこの傾向に拍車がかかると覚悟する必要があります。
中小旅行業者の資金需要
旅行業者は、製造業者のような設備投資が必要なく、卸売・小売業者のような在庫資金も必要とされている訳ではないので、開業資金は比較的少ない資金で起ち上げることが可能です。ですから、多くの旅行業者の方は、開業資金を自己資金、親族などの近親者からの借入、国民金融公庫(日本政策金融公庫)、銀行などで調達されていると思われます。
しかしながら、開業後の事業活動をしていくうえで運転資金が不足することがあります。法人顧客を相手に事業をしておれば、先方の締め日払いの関係で、一時的なチケット代金などの立替が生じることになります。また、団体客を取り扱う場合も、チケット代金や諸経費の立て替えが生じることになります。そのため、必要な資金調達能力がなければ、重要なビジネスチャンスをみすみす逸することにもなりかねません。
そのため、必要な時に必要な資金を調達できる体制を確保することが業界で成功する秘訣といえます。
中小旅行業者の運転資金の調達方法
手配旅行を中心に事業展開している事業者の場合、受注を確定させてからチケットなどの手配をするのが通常です。そのため、必要とされる資金量は容易に測定できます。また、客先に対する売掛債権の入金予定日と入金予定額も受注時点で概ね確定されています。ですから、旅行業者の場合、プロジェクト単位での資金計画をたてることが必要となります。しかも、受注直後に手配業務が必要となることもありますので、迅速な融資が約束されていることも重要な要件となります。
運転資金を銀行からの借入金に依存するならば、中長期的な資金需要を見込み、必要と想定される資金を確保することになりますが、見込どおりの受注がとれなければ、過剰借入となり、不要な金利を支払わなければなりません。また、銀行と取引をする場合には、担保や保証人を要求されるのが通常です。そのため、比較的少額で、借入期間も短時日の資金調達が要求される旅行事業にとって、運転資金を銀行借入に依ることは決して適切なものではないといえます。
そこで、旅行事業者の事業形態を考慮すれば、一定の融資枠(10万円〜500万円)を確保し、一括返済や増額返済が可能で、キャッシュディスペンサーによる引き出しが可能なカードローンを活用することが望ましいと考えられます。確かに、表面金利は銀行などの借入金と比較すれば高いといえますが、必要なときに必要なだけの資金を調達することができ、売掛債権が入金されれば、遅滞なく返済することによって支払金利負担も押さえることも可能です。
事業の実態に即した資金調達により、不要な金利負担をすることもなく、また、資金手当ができずに受注を見送るといったことを回避することができるようになるのです。
※このコラムは不定期で掲載します
執筆:玉置栄一(公認会計士・税理士)
1978年関西大学経済学部卒業。翌年監査法人中央会計
事務所(「みすず監査法人」に名称変更後解散)入所。
1983年公認会計士登録(登録番号8037)、1993年税理士
登録(登録番号78184)。1994年1月に公認会計士・税理
士玉置事務所を開設。日本公認会計士協会近畿会幹事
(5期10年)、近畿公認会計士協同組合専務理事などを
歴任。現在、関西大学会計専門職大学院教育顧問。著者
に「企業再生 なるほどQ&A」(中央経済社)、「スポ
ーツの法律問題」(共著、民事法研究会)、「よくわか
る新連結財務諸表」(共著、清文社)など。