取材ノート:2010年の旅客需要、航空会社の戦略−アマデウス会議から

  • 2010年1月27日
 2010年は需要回復の兆候がうかがえるものの、航空会社がゼロコミッションを本格化することもあり、旅行会社がこれまでどおりのビジネスを展開して成長を達成できる可能性は低い。これは旅行会社のみならず、旅行関連企業にも同様のこと。こうした状況のなか、アマデウス・アジア・パシフィックは昨年11月、旅行市場の現状と2010年の見通し、同社の戦略を説明するメディア・ブリーフィングを開催し、新たな時代への同社の対応、姿勢をアピールした。ここで話された市場動向予測と分析から、2010年の旅行業界の展望を考察する。
 
 
 
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航空需要動向、旅客数回復もイールド伸び悩み

 昨年の後半から旅客需要が戻りつつあることは、航空会社だけでなく国際航空運送協会(IATA)も同様のレポートを発表しており間違いないだろう。アマデウス・アジア・パシフィック(アマデウス)プレジデントのデービッド・ブレット氏も、すでに航空会社のロードファクターは高い水準に回復しているとし、「アジア太平洋地域は、他地域よりも大きく需要が減少しやすいが、非常に強い弾力性を持っている」ことから、2010年のアジア太平洋地域の旅客数は2007年の規模にまで回復すると見る。

 ただし、多くの航空会社関係者が指摘するように、ロードファクターが高水準となるのは運賃の値下がりによるところが大きく、イールドは依然として伸び悩んでいる。ブレット氏も、2010年の旅行者は経済が安定化しつつあることを感じつつも、コスト意識は高いままと予想。旅行者は「より安い運賃を得るため、ぎりぎりまで待とうとする」ため、イールドの回復には時間がかかるとの考えだ。

 業務渡航の需要も同様で、アマデウス航空業界担当のバイス・プレジデントであるジョン・チャップマン氏によると、2009年のはじめに実施した出張需要関連の調査でも“少、近、短”の傾向が強かったという。仮に景気が回復したとしても、いったん出張コストを縮小した会社が前と同じ条件で同じ金額を支払うようになるとは考えにくいため、“少、近、短”志向は今後も続く可能性がある。ただし、出張の重要性自体は変わらないため、不必要な出張の削減に加えて、よりコスト効率の高い方法で出張することが求められていくはずという。


航空会社の戦略、増収とコスト削減に注力へ

 旅客数は回復しても得られる収益は伸び悩み、特にプレミアムクラスの需要減退によって大きな打撃を受けるなかで、航空会社はどのような戦略をとるか。チャップマン氏は、プレミアムクラスの座席削減による需給適合のほか、直接的な増収策として「自社ウェブサイトでの直販」と「付加サービスの有料販売」の可能性を指摘する。ウェブ直販については、すでに日本でもポピュラーになりつつあるウェブ限定の安価な運賃の設定、ユーザーの利便性向上などの取り組みが進められておリ、今後、検索方法の改良なども進むという。

 また、チャップマン氏が「アラカルトサービス」と表現する付加サービスの有料販売では、人気の高い座席を有料で指定できるサービスなどがすでにはじまっている。ただし、アジアの航空会社はブランド重視の姿勢が強く、「ブランドとはサービスそのものであるため、米系航空会社ほど積極的ではない」として、今後どの程度まで浸透するかは不透明との分析だ。日本では、全日空(NH)がプレミアムクラスの食事をエコノミークラスの旅客に有料販売するなど、“既存サービスの有料化”ではなく“新しい価値で対価を得る”ことへの取り組みをはじめている。ブランド価値を低下させずに追加収益を上げられるため、他社にも同様の動きが広がる可能性もあるだろう。

 このほかチャップマン氏は、コスト削減策としてセルフサービスの拡大が進むと予想。自動チェックイン機などがその代表例で、「コスト削減だけでなく、サービスの充実につながる」ことから、今後も積極的な取り組みがなされる可能性が高いとする。同様に、携帯電話などモバイル向けの機能充実も進むとの予測だ。


旅行会社の戦略、「ニュー・ノーマル」の対応必須

 ブレット氏は、LCCの市場拡大やフルサービスキャリアの付加サービス販売など、この数年間で経済危機などによって変化し、経済危機が過ぎた後にも以前の状態に戻れないものを「ニュー・ノーマル」と表現する。また、現在の旅行会社は、「旅行会社が自らの得意分野を見つけ、サービスに焦点をあてる」方向性への「変化」が求められているという。言い換えれば、「ニュー・ノーマル」を前提として「変化」することが旅行会社の成長につながるとの主張と考えられる。

 ブレット氏はアジア太平洋地域の「ニュー・ノーマル」の例として、上記のほか、航空会社がプレミアムクラス需要の取り戻しに向けて各種施策を展開するであろうこと、また、特に業務渡航で出張費用や出張目的が精査されるようになることなどを列挙。このうちLCCは日本市場では東南アジア地域に比べて浸透しておらず、今はまだ日本市場の「ニュー・ノーマル」とはいえないだろう。一方、ゼロコミッションの本格化やオンライン旅行会社の成長はまぎれもなく現在の日本市場の「ニュー・ノーマル」と考えられる。このように「ニュー・ノーマル」は市場ごとに異なるはずで、「変化」のためには日本市場の「ニュー・ノーマル」を把握する必要があるといえるだろう。


アマデウスの対応

 アマデウス・アジア・パシフィックは、変化する旅行業界の中で、「新しいテクノロジ
ーを導入することで、今日の多くの不可能を可能にできる」(ブレット氏)ことを打ち出
し、航空会社と旅行会社双方のニーズに対応する製品展開をめざしている。例えば航空会
社に対しては、フルサービスキャリアの古い基幹システムを同社の旅客/イールドマネー
ジメント・システム「アルテア」に置き換えることで、流通チャネルを多様化したり、個
々の消費者のニーズをより詳細に把握して商品に反映できたりするメリットを打ち出して
いる。

 また、旅行会社に対しては、「アマデウスの戦略は、旅行会社の商品をできる限り質が
高く強力なものにし、成長し続けられるようにすること」(チャップマン氏)との姿勢で
ソリューションを提供。複雑な旅程など旅行会社しか実現できないサービスを可能とする
システムの提供や、LCCをアマデウスのGDSから予約可能にしてコスト意識の高まりに応え
られるようにするといった取り組みにより、「ニュー・ノーマル」への対応をサポートし
ていく。


取材:本誌 松本裕一