法律豆知識(101)、フライト・キャンセルからの紛争〜IFTTA学会報告(2)
前回は、マルタで開催された国際旅行法学会(IFTTA)から、ハンガリーの先生のレポートを題材に「大阪事件」を紹介した。今回も、その中から一つの事例を参考に、引き続き検討することにしよう。
<ブラッセルのケース>
ある旅行者Aが、ブリュッセル発、ブタペスト行きのマレブ航空の定期便で帰国しようとした。搭乗後、クルーから「技術的な理由(technical reasons)」により、フライト・キャンセルとなる旨が告げられた。結局Aは、マレブが運航する別便に搭乗し、翌日、一日遅れでブタペストに到着することとなった。
Aは、EU Regulation 261/2004/ECの7条にもとづき、250ユーロの補償(距離により補償額が異なる)を請求した。
しかし、マレブは、Regulationの第5条第3項、およびモントリオール条約の第3章第19条を根拠にAの補償の請求を拒絶した。なお、モントリオール条約19条では、航空会社はフライトの遅延(delay)については責任を負わないことになっている。
<何が問題か>
ヨーロッパでは、このようにフライトの遅延やキャンセルが発生すると、補償の問題が持ち上がる。その是非については、様々な角度から議論されている。本件もその1つである。なお、モントリオール条約とEU Regulationの関係は難しく、ここでは触れないこととしよう。
いずれにしても、A側の代理人は、モントリオール条約は本件に適用されず、かつ、キャンセルの原因が、マレブ側の原因によるので、250ユーロの請求は当然であるとして、訴訟提起した。
<空港で何が起きたのか>
訴訟におけるA側の主張は、主脚装置と車輪をつなぐ棒の締め方(tensing)が不十分であったため、折からの降雨の中、牽引トラックが機体を動かそうとしたところ、車輪がスリップ。これにより、主脚装置が破損してしまった。直ぐには修理できる状況ではなく、かつ、マレブに代替機もないことから、Aは一日遅れで別の便で帰国することとなった、という主張である。
<日本では>
この一件に起因する訴訟そのものは、係属中でその結論はでていない。しかし、あらゆる合理的な手段(all reasonable measures)を講じても、本件トラブルは「避けられなかった」ということをマレブ側が立証できない限り、Aが勝訴すると思われる。
原告の主張を前提にすれば、本件のフライト・キャンセルは、主脚のある部分の締め方が不十分だったという、「些細な整備上のミス」から生じたもので、いつ、どこでも起こりうるもの。
しかし、旅行者にとってはその影響は大きい。天候によるフライトの遅延やキャンセルなどはともかく、整備上のミスが原因となる場合は、航空会社の責任が問われておかしくはない。
日本でも、不法行為による損害賠償の問題が生じてもおかしくないはず。だが、実際に訴訟になったケースはほとんど無く、そもそも、航空会社にクレームが申立てられることも稀であろう。しかし、ヨーロッパの状況からすれば、それは極めて不思議なことである。私自身、なぜ、日本とヨーロッパは、このように異なる状況であるか、という問題を含めて今後、様々な角度から研究したいと思っている。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第100回 フライト・キャンセルから発展した紛争(1)
第99回 スキューバダイビング事故、旅行会社の責任を問う
第98回 スキューバダイビングでの溺死事故、ダイビングそのものに注意を
第97回 外国の弁護士事務所から訴状が送られてきた!!
第96回 法律家の観点から〜海外旅行の主流のPKGツアー
----------------------------------------------------------------------
※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
<ブラッセルのケース>
ある旅行者Aが、ブリュッセル発、ブタペスト行きのマレブ航空の定期便で帰国しようとした。搭乗後、クルーから「技術的な理由(technical reasons)」により、フライト・キャンセルとなる旨が告げられた。結局Aは、マレブが運航する別便に搭乗し、翌日、一日遅れでブタペストに到着することとなった。
Aは、EU Regulation 261/2004/ECの7条にもとづき、250ユーロの補償(距離により補償額が異なる)を請求した。
しかし、マレブは、Regulationの第5条第3項、およびモントリオール条約の第3章第19条を根拠にAの補償の請求を拒絶した。なお、モントリオール条約19条では、航空会社はフライトの遅延(delay)については責任を負わないことになっている。
<何が問題か>
ヨーロッパでは、このようにフライトの遅延やキャンセルが発生すると、補償の問題が持ち上がる。その是非については、様々な角度から議論されている。本件もその1つである。なお、モントリオール条約とEU Regulationの関係は難しく、ここでは触れないこととしよう。
いずれにしても、A側の代理人は、モントリオール条約は本件に適用されず、かつ、キャンセルの原因が、マレブ側の原因によるので、250ユーロの請求は当然であるとして、訴訟提起した。
<空港で何が起きたのか>
訴訟におけるA側の主張は、主脚装置と車輪をつなぐ棒の締め方(tensing)が不十分であったため、折からの降雨の中、牽引トラックが機体を動かそうとしたところ、車輪がスリップ。これにより、主脚装置が破損してしまった。直ぐには修理できる状況ではなく、かつ、マレブに代替機もないことから、Aは一日遅れで別の便で帰国することとなった、という主張である。
<日本では>
この一件に起因する訴訟そのものは、係属中でその結論はでていない。しかし、あらゆる合理的な手段(all reasonable measures)を講じても、本件トラブルは「避けられなかった」ということをマレブ側が立証できない限り、Aが勝訴すると思われる。
原告の主張を前提にすれば、本件のフライト・キャンセルは、主脚のある部分の締め方が不十分だったという、「些細な整備上のミス」から生じたもので、いつ、どこでも起こりうるもの。
しかし、旅行者にとってはその影響は大きい。天候によるフライトの遅延やキャンセルなどはともかく、整備上のミスが原因となる場合は、航空会社の責任が問われておかしくはない。
日本でも、不法行為による損害賠償の問題が生じてもおかしくないはず。だが、実際に訴訟になったケースはほとんど無く、そもそも、航空会社にクレームが申立てられることも稀であろう。しかし、ヨーロッパの状況からすれば、それは極めて不思議なことである。私自身、なぜ、日本とヨーロッパは、このように異なる状況であるか、という問題を含めて今後、様々な角度から研究したいと思っている。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第100回 フライト・キャンセルから発展した紛争(1)
第99回 スキューバダイビング事故、旅行会社の責任を問う
第98回 スキューバダイビングでの溺死事故、ダイビングそのものに注意を
第97回 外国の弁護士事務所から訴状が送られてきた!!
第96回 法律家の観点から〜海外旅行の主流のPKGツアー
----------------------------------------------------------------------
※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com

ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/