法律豆知識(100)、フライトキャンセルから発展した紛争〜IFTTA学会報告
<はじめに:マルタの学会>
国際旅行法学会(IFTTA)が去る9月7日から10日まで、マルタで開催され、私も参加してきた。今回は、メインンテーマのeコマースをはじめ、様々なテーマで意見交換がなされ、大きな成果が得られたと思っている。その中で、ハンガリーの大学の先生が、「the Osaka case」として発表された事例がある。日本の方々にも興味深い話と思われるので紹介しよう。
<Osaka case>
ある旅行グループがオーストリア航空で、大阪からウイーン経由でブタペストへ帰国するところ、関空で予定していた便が「テクニカル・エラー」のため、フライトキャンセルと告げられた。このグループは手配を仕直し、中国民航の定期便を利用し、北京経由で当初の予定から一日遅れで帰国した。
帰国後、旅行局(Travel Bureau)が旅行者に代わり、レギュレーション(Paragraph (3)of Article 5 of the EU Regulation 261/2004/EC)に基づき、旅行者一人につき600ユーロの補償を求めたところ、オーストリア航空はその支払を拒絶した。
理由は、出発前のフライトキャンセルが予見不可能(unforeseeable)な「テクニカル・エラー(technical error)」によるもので、かつ、代替機の投入が出来ない状況にあったからと言う。こうして、この件についての争点は(1)果たして、テクニカル・エラーがあったのか否か、(2)仮にあった場合、そのテクニカル・エラーが補修整備上の過失に基づいていなかったか、に絞られた。
旅行局はオーストリア航空に対し、整備点検プロトコルの提出を要求。オーストリア航空側は提出要求を拒絶し、十分な検討が成されないまま、オーストリア航空が旅行者一人あたり500ユーロを支払うことで、本件は解決した。
<日本では紛争になるか>
機体故障で一日遅れの到着というのは、時々起こる現象である。しかし、日本ではこれが損害賠償にまで発展することは希なので、本ケースは極めて興味深い事例だ。確かに、争点は整備・点検に過失があったか否かである。多くの場合は、実損害が発生せず、仮に発生しても僅少なため、深刻な紛争にはならないのであろう。しかし、一日遅れたことにより、「ビジネスチャンスを失った」などというケースの場合には巨大な損害額となり、深刻な紛争になることが十分に予想される。日本ではフライトキャンセル、遅延(delay)の問題は、十分に議論されていないので、今後、議論の発展が望まれるところだ。
<次回の学会>
来年のIFTTA学会は9月末にリスボンで開かれる予定だ。テーマは航空業界における「Low Cost AirlineとCompetition Law」の関係がテーマの一つとなることが決まっている。このテ−マは、日本でもかなり深刻な問題となっているので(但し、深刻と言っても極めて「日本的」に潜在化しているが!)、私としてもこの問題について、日本の現状をまとめてプレゼンテーションするつもりである。このテーマについて、有力な情報をもたれている方は、御協力の程、宜しくお願いします。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第99回 スキューバダイビング事故、旅行会社の責任を問う
第98回 スキューバダイビングでの溺死事故、ダイビングそのものに注意を
第97回 外国の弁護士事務所から訴状が送られてきた!!
第96回 法律家の観点から〜海外旅行の主流のPKGツアー
第95回 レストランでの火傷は誰の責任か〜TCSAレポートを参考に
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
国際旅行法学会(IFTTA)が去る9月7日から10日まで、マルタで開催され、私も参加してきた。今回は、メインンテーマのeコマースをはじめ、様々なテーマで意見交換がなされ、大きな成果が得られたと思っている。その中で、ハンガリーの大学の先生が、「the Osaka case」として発表された事例がある。日本の方々にも興味深い話と思われるので紹介しよう。
<Osaka case>
ある旅行グループがオーストリア航空で、大阪からウイーン経由でブタペストへ帰国するところ、関空で予定していた便が「テクニカル・エラー」のため、フライトキャンセルと告げられた。このグループは手配を仕直し、中国民航の定期便を利用し、北京経由で当初の予定から一日遅れで帰国した。
帰国後、旅行局(Travel Bureau)が旅行者に代わり、レギュレーション(Paragraph (3)of Article 5 of the EU Regulation 261/2004/EC)に基づき、旅行者一人につき600ユーロの補償を求めたところ、オーストリア航空はその支払を拒絶した。
理由は、出発前のフライトキャンセルが予見不可能(unforeseeable)な「テクニカル・エラー(technical error)」によるもので、かつ、代替機の投入が出来ない状況にあったからと言う。こうして、この件についての争点は(1)果たして、テクニカル・エラーがあったのか否か、(2)仮にあった場合、そのテクニカル・エラーが補修整備上の過失に基づいていなかったか、に絞られた。
旅行局はオーストリア航空に対し、整備点検プロトコルの提出を要求。オーストリア航空側は提出要求を拒絶し、十分な検討が成されないまま、オーストリア航空が旅行者一人あたり500ユーロを支払うことで、本件は解決した。
<日本では紛争になるか>
機体故障で一日遅れの到着というのは、時々起こる現象である。しかし、日本ではこれが損害賠償にまで発展することは希なので、本ケースは極めて興味深い事例だ。確かに、争点は整備・点検に過失があったか否かである。多くの場合は、実損害が発生せず、仮に発生しても僅少なため、深刻な紛争にはならないのであろう。しかし、一日遅れたことにより、「ビジネスチャンスを失った」などというケースの場合には巨大な損害額となり、深刻な紛争になることが十分に予想される。日本ではフライトキャンセル、遅延(delay)の問題は、十分に議論されていないので、今後、議論の発展が望まれるところだ。
<次回の学会>
来年のIFTTA学会は9月末にリスボンで開かれる予定だ。テーマは航空業界における「Low Cost AirlineとCompetition Law」の関係がテーマの一つとなることが決まっている。このテ−マは、日本でもかなり深刻な問題となっているので(但し、深刻と言っても極めて「日本的」に潜在化しているが!)、私としてもこの問題について、日本の現状をまとめてプレゼンテーションするつもりである。このテーマについて、有力な情報をもたれている方は、御協力の程、宜しくお願いします。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第99回 スキューバダイビング事故、旅行会社の責任を問う
第98回 スキューバダイビングでの溺死事故、ダイビングそのものに注意を
第97回 外国の弁護士事務所から訴状が送られてきた!!
第96回 法律家の観点から〜海外旅行の主流のPKGツアー
第95回 レストランでの火傷は誰の責任か〜TCSAレポートを参考に
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IFTTAサイト: http://www.ifta.org/