法律豆知識(93)、添乗員に対するセクハラ、旅行会社にも責任はあるのか
日本添乗サービス協会(TCSA)が発表している「派遣添乗員の労働実態と職業意識」という報告書は内容が豊かだ。目を通すと、派遣添乗員の様々な問題点が浮かび上がってくる。さて、今回はこの報告書の中でセクシュアルハラスメントについての詳しい調査を参照しながら、セクハラに関する旅行会社の責任などを検討したい。
<添乗員とセクハラ>
報告書では、海外の主催旅行において、お客からのセクハラが43.9%に対して、バスドライバーからが55.4%を占め、お客からよりバスドライバーからのセクハラが多いという。ちなみに3番目は、現地ガイドからで33.1%を占める。
海外の手配旅行では、お客が62.8%、オーガナイザーが37.2%、バスドライバーが17.4%、現地ガイドが12.8%となっている。手配旅行の多くは、いわゆる仲間内の旅行。このような時、「旅の恥はかきすて」という日本人の見苦しさが出てしまうのが実態なのか、お客やオーガナイザーの割合が増えるのだろう。いずれにしても、バスドライバーがこのように高率であることに正直、驚いた。現地ガイドも比率では高いことも見逃せない。
こうしたバスドライバー、現地ガイドなどのセクハラの比率が多い点について、日本の旅行業者はよく認識する必要がある。バス会社も、現地旅行業者も、日本の旅行業者にとっては取引先である。添乗員がセクハラを受けた場合、それに対処するのは、雇用者側の責任である。派遣添乗員に対しても、管理上の責任は、自己の社員と同様である。取引先であるバス会社や現地旅行社に対し、雇用主として、厳重に抗議するとともに、善処を求める必要がある。契約解除を視野に入れるべき事態でもある。
だが、日本の会社では、このような時の対応は鈍い。ただし、最近メディアでも盛んに報じられたアメリカ・トヨタのセクハラ事件を思い出して欲しい。適切な対応を怠ると、会社も損害賠償を負うことになる。日本は、アメリカのように懲罰的賠償責任の制度はないが、賠償責任はある。
この際、男女雇用機会均等法の存在も忘れないで欲しい。同法第21条では、職場におけるセクハラ防止のため、事業主の配慮義務について規定がある。日本でも、事業主はセクハラに対し、多くの責任を負う時代なのだ。
派遣会社も派遣添乗員のため、必要な対処をする必要がある。派遣会社にとっては、自己が雇用しているので、直接の雇用者として、セクハラに対し適切に対処する義務がある。派遣先の旅行業者に善処を求めることをすべきで、それが不十分であれば、事業主が主体的に現地のバス会社や、旅行代理店に直接抗議し、善処を求めるべき責任がある。
<お客のセクハラ>
お客にセクハラを受け、添乗員が現場で抗議しても、「それなら、あんたの会社にこれから仕事を頼まない」とすごまれ、強く言えず、泣き寝入りをするケースも多いと聞く。これも困った状況である。
日本の場合、セクハラに対する認識が甘く、添乗員を犠牲にしてでも、取引の継続を優先する企業も多い。しかし、添乗員がセクハラを受けた時、相手が例え顧客であっても、必要な抗議をして善処を求めることは必要だ。
日本の企業文化の中では、取引の継続よりも従業員をセクハラから守るという正義感は希薄だ。アメリカであればこうした場合、旅行業者や派遣会社が必要な対処をしないと、訴訟で確実に事業者責任を追求される。日本では、こうした訴訟は稀であったが、今後は確実に増加すると考えるべきだ。日本企業は、セクハラについて、社内システムを含め、それに対するコンセプトを根本から見直す必要があるだろう。
<添乗員はセクハラを報告できるか>
現場で起こるセクハラが、会社として確実に認識できているのか。これが実際上の問題点だろう。男女雇用機会均等法に則れば、会社内に、公正な相談窓口を用意し、セクハラ情報を確実に受領し、必要な対処をする体制が必要である。
日本の場合、現場のネガティブ情報が経営サイドまで上がらないことが多い。上に述べたとおり、添乗員を犠牲にしても、顧客を優先するという風土が厳然と存在する。その結果、セクハラを届け出ても、適切な処理をすることに期待が持てない。場合によっては、期待するどころか、営業の邪魔をしたとして、逆に不利に扱われるおそれも強く、添乗員が泣き寝入りするということになるのだろう。
TCSAの報告書の通り、セクハラは、バスのドライバーや現地ガイドが加害者という例が実に多い。添乗員は、強く拒めば彼らが非協力になり、そのツアー全体が台無しになることを恐れて、毅然とした態度がとれないことが多いとも聞く。
しかし、これは問題である。ドライバーや現地ガイドが平然とセクハラをするのは、後で、日本の旅行業者が厳格な対処をする訳がないとナメているのだ。ナメられる企業だけにはなって欲しくないものだ。
=====< 法律豆知識 バックナンバー>=====
第92回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜最終回
第91回 旅行業者のための「中小企業と新会社法」〜その4
第90回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その3
第89回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その2
第88回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その1
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
<添乗員とセクハラ>
報告書では、海外の主催旅行において、お客からのセクハラが43.9%に対して、バスドライバーからが55.4%を占め、お客からよりバスドライバーからのセクハラが多いという。ちなみに3番目は、現地ガイドからで33.1%を占める。
海外の手配旅行では、お客が62.8%、オーガナイザーが37.2%、バスドライバーが17.4%、現地ガイドが12.8%となっている。手配旅行の多くは、いわゆる仲間内の旅行。このような時、「旅の恥はかきすて」という日本人の見苦しさが出てしまうのが実態なのか、お客やオーガナイザーの割合が増えるのだろう。いずれにしても、バスドライバーがこのように高率であることに正直、驚いた。現地ガイドも比率では高いことも見逃せない。
こうしたバスドライバー、現地ガイドなどのセクハラの比率が多い点について、日本の旅行業者はよく認識する必要がある。バス会社も、現地旅行業者も、日本の旅行業者にとっては取引先である。添乗員がセクハラを受けた場合、それに対処するのは、雇用者側の責任である。派遣添乗員に対しても、管理上の責任は、自己の社員と同様である。取引先であるバス会社や現地旅行社に対し、雇用主として、厳重に抗議するとともに、善処を求める必要がある。契約解除を視野に入れるべき事態でもある。
だが、日本の会社では、このような時の対応は鈍い。ただし、最近メディアでも盛んに報じられたアメリカ・トヨタのセクハラ事件を思い出して欲しい。適切な対応を怠ると、会社も損害賠償を負うことになる。日本は、アメリカのように懲罰的賠償責任の制度はないが、賠償責任はある。
この際、男女雇用機会均等法の存在も忘れないで欲しい。同法第21条では、職場におけるセクハラ防止のため、事業主の配慮義務について規定がある。日本でも、事業主はセクハラに対し、多くの責任を負う時代なのだ。
派遣会社も派遣添乗員のため、必要な対処をする必要がある。派遣会社にとっては、自己が雇用しているので、直接の雇用者として、セクハラに対し適切に対処する義務がある。派遣先の旅行業者に善処を求めることをすべきで、それが不十分であれば、事業主が主体的に現地のバス会社や、旅行代理店に直接抗議し、善処を求めるべき責任がある。
<お客のセクハラ>
お客にセクハラを受け、添乗員が現場で抗議しても、「それなら、あんたの会社にこれから仕事を頼まない」とすごまれ、強く言えず、泣き寝入りをするケースも多いと聞く。これも困った状況である。
日本の場合、セクハラに対する認識が甘く、添乗員を犠牲にしてでも、取引の継続を優先する企業も多い。しかし、添乗員がセクハラを受けた時、相手が例え顧客であっても、必要な抗議をして善処を求めることは必要だ。
日本の企業文化の中では、取引の継続よりも従業員をセクハラから守るという正義感は希薄だ。アメリカであればこうした場合、旅行業者や派遣会社が必要な対処をしないと、訴訟で確実に事業者責任を追求される。日本では、こうした訴訟は稀であったが、今後は確実に増加すると考えるべきだ。日本企業は、セクハラについて、社内システムを含め、それに対するコンセプトを根本から見直す必要があるだろう。
<添乗員はセクハラを報告できるか>
現場で起こるセクハラが、会社として確実に認識できているのか。これが実際上の問題点だろう。男女雇用機会均等法に則れば、会社内に、公正な相談窓口を用意し、セクハラ情報を確実に受領し、必要な対処をする体制が必要である。
日本の場合、現場のネガティブ情報が経営サイドまで上がらないことが多い。上に述べたとおり、添乗員を犠牲にしても、顧客を優先するという風土が厳然と存在する。その結果、セクハラを届け出ても、適切な処理をすることに期待が持てない。場合によっては、期待するどころか、営業の邪魔をしたとして、逆に不利に扱われるおそれも強く、添乗員が泣き寝入りするということになるのだろう。
TCSAの報告書の通り、セクハラは、バスのドライバーや現地ガイドが加害者という例が実に多い。添乗員は、強く拒めば彼らが非協力になり、そのツアー全体が台無しになることを恐れて、毅然とした態度がとれないことが多いとも聞く。
しかし、これは問題である。ドライバーや現地ガイドが平然とセクハラをするのは、後で、日本の旅行業者が厳格な対処をする訳がないとナメているのだ。ナメられる企業だけにはなって欲しくないものだ。
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第88回 旅行業者のための、「中小企業と新会社法」〜その1
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