法律豆知識(88)、旅行業者のための、「中小企業と新会社法」
全面的に書き改められた新会社法が、5月1日から施行されたことはご存じのことと思う。とはいえ、その条文は979条もあり、その全容を理解するのは、法律の専門家でも、大変なエネルギーが必要となる。
新会社法の下で今後、会社運営がどう変わるのか、さっぱり判らず困っている人は多いようだ。そこで今号からシリーズで新会社法のエキスを解説していくこととしよう。
ただし、旅行業者の多くは中小企業であるので中小企業にとって会社法がどう変わったのかという視点でまとめること、ご了承いただきたい。
<ほっておいても、すぐには困らない仕組み>
新会社法の目玉は、「定款自治」である。「定款自治」とは、定款で様々な会社組織を構築できるということ。新会社法では、取締役や監査役等の会社機関の組み合わせだけでも、41通りが可能になったのだ。
このように新会社法により様々な機関構成が可能となったが、逆に言えば、自社にとってどのような機関構成が合理的かを考えるのも大変になったということでもある。そこで、現在のままで放っておいたらどうなるか。
新会社法では、特に変更しなければ、定款で「取締役会及び監査役を置く」旨の定めがあるとみなすことになっている(会社法整備法76条2項)。
従って、中小企業の株式会社であれば、放っておいても、「従来通り」に扱われる。
もちろん今後、定款を変更し、旧来の有限会社のように、取締役のみを置き、取締役会を設置しないことも可能である。しかし、この場合は、株主総会の権限がその分強力になる。これは会社運営上、望ましくない事態も想定されるので、簡易な方向への改正は慎重にすべきである。
また、新会社法では監査役は、会計監査のみでなく業務も監査するのが原則であるが、資本金1億円以下の小会社では、「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する」とみなされる(整備法53条)。
つまり、監査においてもほっておけば、従来の状態を維持できるのである。
ただし、このままでは、株主の権限が強い。例えば、株主は裁判所の許可無く取締役会の議事録を閲覧できる。そこで、定款を変更して、監査役が業務監査まで着手可能にするのも、一つの方法である。もちろん、それだけの責任をとれる監査役を探す必要があるのだが。
さらに新会社法では株券は、新会社法では不発行が原則となる。しかし、定款に不発行の定めがないと、「株券を発行する旨の定めがある」ものとみなされる(整備法76条4項)。旧法では、発行が原則だったので、放っておけば、従来と変わらない。
しかし、株券発行会社は、株券を交付しなければ株式を譲渡できない。これはきわめて不便である。中小企業では、株券をそもそも発行していないところも多い。いざ譲渡するとなると、その印刷から始める、という例も多いのだ。適切な機会を見計らい定款を変更し、株券不発行会社になる方が良いだろう。
<有限会社>
これまでは旅行業者には有限会社が多かった。しかし、多くの紙誌面でご存知かもしれないが、新会社法は有限会社を廃止し、株式会社に一本化した。とはいえ、急な変更は混乱を招くので、従来の有限会社は、放っておけば、「特例有限会社」として有限会社の名前をそのまま維持できることにした。
だが、社員の員数制限(50人)が廃止され、最低資本金制度も無くなる一方、新株予約権の設定や社債の発行が可能となったことを考えると性格としては株式会社に近い。
おもしろいことに、有限会社のメリットは残る。従来通り、取締役や監査役に任期はなく、決算広告の義務もないという。
一方で特例有限会社が普通の株式会社に変わるメリットも多い。例えば、株式会社にすると、他社の吸収合併、株式交換、株式移転も可能になり、M&Aに取り組み易くなるのだ。
有限会社が株式会社になるには、定款を変更し、登記を変更すれば良い。本来、株式会社なので、組織変更は不要だ。しかし、今後は、新たに有限会社も作ることは出来ず、また、一旦株式会社になると、有限会社には戻れないので注意を要する。
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
新会社法の下で今後、会社運営がどう変わるのか、さっぱり判らず困っている人は多いようだ。そこで今号からシリーズで新会社法のエキスを解説していくこととしよう。
ただし、旅行業者の多くは中小企業であるので中小企業にとって会社法がどう変わったのかという視点でまとめること、ご了承いただきたい。
<ほっておいても、すぐには困らない仕組み>
新会社法の目玉は、「定款自治」である。「定款自治」とは、定款で様々な会社組織を構築できるということ。新会社法では、取締役や監査役等の会社機関の組み合わせだけでも、41通りが可能になったのだ。
このように新会社法により様々な機関構成が可能となったが、逆に言えば、自社にとってどのような機関構成が合理的かを考えるのも大変になったということでもある。そこで、現在のままで放っておいたらどうなるか。
新会社法では、特に変更しなければ、定款で「取締役会及び監査役を置く」旨の定めがあるとみなすことになっている(会社法整備法76条2項)。
従って、中小企業の株式会社であれば、放っておいても、「従来通り」に扱われる。
もちろん今後、定款を変更し、旧来の有限会社のように、取締役のみを置き、取締役会を設置しないことも可能である。しかし、この場合は、株主総会の権限がその分強力になる。これは会社運営上、望ましくない事態も想定されるので、簡易な方向への改正は慎重にすべきである。
また、新会社法では監査役は、会計監査のみでなく業務も監査するのが原則であるが、資本金1億円以下の小会社では、「監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する」とみなされる(整備法53条)。
つまり、監査においてもほっておけば、従来の状態を維持できるのである。
ただし、このままでは、株主の権限が強い。例えば、株主は裁判所の許可無く取締役会の議事録を閲覧できる。そこで、定款を変更して、監査役が業務監査まで着手可能にするのも、一つの方法である。もちろん、それだけの責任をとれる監査役を探す必要があるのだが。
さらに新会社法では株券は、新会社法では不発行が原則となる。しかし、定款に不発行の定めがないと、「株券を発行する旨の定めがある」ものとみなされる(整備法76条4項)。旧法では、発行が原則だったので、放っておけば、従来と変わらない。
しかし、株券発行会社は、株券を交付しなければ株式を譲渡できない。これはきわめて不便である。中小企業では、株券をそもそも発行していないところも多い。いざ譲渡するとなると、その印刷から始める、という例も多いのだ。適切な機会を見計らい定款を変更し、株券不発行会社になる方が良いだろう。
<有限会社>
これまでは旅行業者には有限会社が多かった。しかし、多くの紙誌面でご存知かもしれないが、新会社法は有限会社を廃止し、株式会社に一本化した。とはいえ、急な変更は混乱を招くので、従来の有限会社は、放っておけば、「特例有限会社」として有限会社の名前をそのまま維持できることにした。
だが、社員の員数制限(50人)が廃止され、最低資本金制度も無くなる一方、新株予約権の設定や社債の発行が可能となったことを考えると性格としては株式会社に近い。
おもしろいことに、有限会社のメリットは残る。従来通り、取締役や監査役に任期はなく、決算広告の義務もないという。
一方で特例有限会社が普通の株式会社に変わるメリットも多い。例えば、株式会社にすると、他社の吸収合併、株式交換、株式移転も可能になり、M&Aに取り組み易くなるのだ。
有限会社が株式会社になるには、定款を変更し、登記を変更すれば良い。本来、株式会社なので、組織変更は不要だ。しかし、今後は、新たに有限会社も作ることは出来ず、また、一旦株式会社になると、有限会社には戻れないので注意を要する。
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編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
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