第68回法律豆知識、旅行業界にとっての耐震データ偽造事件<特別編>
この二週間、耐震データ偽造問題についてテレビ朝日とフジテレビ等から毎日のように取材を受け、当事務所はてんやわんやであった。この件は、今後どこまで発展するかわからない、根の深いものである。ただ、この件から、旅行業者も、教訓にして欲しい事項も多数感じられるので、今回はこの点を検討することにしよう。
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▽危険リスクを放置することの危険
今回の偽造問題は、ヒューザー等の建築主が、耐震強度というリスクを犠牲にして、床面積が広く安いマンションを売りまくったことから発生した事件である。
パックツアーという旅行商品も、旅行者の危険を常に抱えているものであり、同じような問題が存在することを忘れないで欲しい。旅行は、バス等の交通機関の事故、旅行中の窃盗、パラセーリング等のレジャー関係等の事故などのほか、最近は、テロや暴動が頻発しており、このような多方面の危険を常に抱えているのである。
旅行業者は、これらのリスクを回避して安全な旅行商品を提供する社会的な責任を負っているが、そのためにはコストがかかる。例えば、バス事故対策としては、現地のバス会社の選択、安全運行のための事前協議、コースの下調査、現場で必要な対処をするための添乗員の教育など、すべきことは多い。
これらの安全に対するコストを節約すれば、旅行商品は安くなる。そうすれば、一時的な売り上げは上がるであろう。しかし、その結果事故が起きれば、ヒューザーと同じ立場に立つ。バス事故でも、死亡事故となれば、請求額は、一人1億円も稀ではない。多数の被害者がでれば、その会社の賠償能力を遙かに超えることもあり得る。
リスクを回避するための投資を怠るとどうなるか、今回の事件が強く警告していると言えるだろう。
▽リスク隠匿発見の難しさ
今回の事件で重大なポイントは、建築確認で偽造データを見逃したという点。建築確認が必要なチェックをしていれば、発生しなかったはずなのである
しかし、このような危険は、建築業界に限らず、社会のあちこちに存在する。皆さんの会社内にも、このような脆弱性は、至るところにあると思ったほうがいい。
実は、耐震データは、膨大でチェックは本来大変である。それ故、現場では、有効なチェックがなされていなかったという現実がある。そのような現実を前提があるのなら、提出するデータの作出に共通ルールを持たせ、チェックもコンピュータで容易に出来るようなシステムにしておくという体制づくりをしておくべきであった。
民間に建築確認を開放するのなら、官によるチェックシステム、例えば、抜き取り検査をするシステム作りが必要であった。しかし、このような対策は、その必要性さえ議論されていなかった。
皆さんの会社内でも、リスクをチェックすべきなのに、それが不十分という状況は、結構あるだろう。皆さんの旅行商品で、危険性はじゅうぶんチェックされているか、見直して頂きたい。開発部署だけに任せず、それを第三者的にチェックさせるようなチェックシステムの構築は是非必要である。
▽現場の声が上に届かない不思議
今回は、コンクリートの中にあるべき鉄筋が、大幅にはしょられていた。耐震強度が、50%以下というのは、現場のものは、容易に気ずいたはずである。しかし、現場からそのような声が漏れないまま、月日が経ってしまい、被害が広がってしまった。
旅行商品の開発段階、また実際に旅行を実施している現場で、このままでは危険ではないかという状況は、あり得る。そのとき、現場での声が責任者まであがっているだろうか。企業の場合、悪い情報は、どこかで止まってしまい責任者まで届かないという現実が見受けられるのも事実である。
添乗員が現場で感じた危険な状況が、果たして責任者まで報告されるシステムになっているだろうか。商品設計段階でネガティブな危険情報が責任者まで、きちんと届いているだろうか。うちだけは大丈夫と過信せずに、定期的に、自社内の危険情報の伝達状況をチェックする努力は必要であろう。
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/
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▽危険リスクを放置することの危険
今回の偽造問題は、ヒューザー等の建築主が、耐震強度というリスクを犠牲にして、床面積が広く安いマンションを売りまくったことから発生した事件である。
パックツアーという旅行商品も、旅行者の危険を常に抱えているものであり、同じような問題が存在することを忘れないで欲しい。旅行は、バス等の交通機関の事故、旅行中の窃盗、パラセーリング等のレジャー関係等の事故などのほか、最近は、テロや暴動が頻発しており、このような多方面の危険を常に抱えているのである。
旅行業者は、これらのリスクを回避して安全な旅行商品を提供する社会的な責任を負っているが、そのためにはコストがかかる。例えば、バス事故対策としては、現地のバス会社の選択、安全運行のための事前協議、コースの下調査、現場で必要な対処をするための添乗員の教育など、すべきことは多い。
これらの安全に対するコストを節約すれば、旅行商品は安くなる。そうすれば、一時的な売り上げは上がるであろう。しかし、その結果事故が起きれば、ヒューザーと同じ立場に立つ。バス事故でも、死亡事故となれば、請求額は、一人1億円も稀ではない。多数の被害者がでれば、その会社の賠償能力を遙かに超えることもあり得る。
リスクを回避するための投資を怠るとどうなるか、今回の事件が強く警告していると言えるだろう。
▽リスク隠匿発見の難しさ
今回の事件で重大なポイントは、建築確認で偽造データを見逃したという点。建築確認が必要なチェックをしていれば、発生しなかったはずなのである
しかし、このような危険は、建築業界に限らず、社会のあちこちに存在する。皆さんの会社内にも、このような脆弱性は、至るところにあると思ったほうがいい。
実は、耐震データは、膨大でチェックは本来大変である。それ故、現場では、有効なチェックがなされていなかったという現実がある。そのような現実を前提があるのなら、提出するデータの作出に共通ルールを持たせ、チェックもコンピュータで容易に出来るようなシステムにしておくという体制づくりをしておくべきであった。
民間に建築確認を開放するのなら、官によるチェックシステム、例えば、抜き取り検査をするシステム作りが必要であった。しかし、このような対策は、その必要性さえ議論されていなかった。
皆さんの会社内でも、リスクをチェックすべきなのに、それが不十分という状況は、結構あるだろう。皆さんの旅行商品で、危険性はじゅうぶんチェックされているか、見直して頂きたい。開発部署だけに任せず、それを第三者的にチェックさせるようなチェックシステムの構築は是非必要である。
▽現場の声が上に届かない不思議
今回は、コンクリートの中にあるべき鉄筋が、大幅にはしょられていた。耐震強度が、50%以下というのは、現場のものは、容易に気ずいたはずである。しかし、現場からそのような声が漏れないまま、月日が経ってしまい、被害が広がってしまった。
旅行商品の開発段階、また実際に旅行を実施している現場で、このままでは危険ではないかという状況は、あり得る。そのとき、現場での声が責任者まであがっているだろうか。企業の場合、悪い情報は、どこかで止まってしまい責任者まで届かないという現実が見受けられるのも事実である。
添乗員が現場で感じた危険な状況が、果たして責任者まで報告されるシステムになっているだろうか。商品設計段階でネガティブな危険情報が責任者まで、きちんと届いているだろうか。うちだけは大丈夫と過信せずに、定期的に、自社内の危険情報の伝達状況をチェックする努力は必要であろう。
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※本コーナーへのご意見等は編集部にお寄せ下さい。
編集部: editor@travel-vision-jp.com
執筆:金子博人弁護士[国際旅行法学会(IFTTA)理事、東京弁護士会所属]
ホームページ: http://www.kaneko-law-office.jp/
IFTTAサイト: http://www.ifta.org/